1,109 / 1,519
調査
しおりを挟む二十リットくらいか、稍あって漸く亀裂と仮設足場が見付かった。
「来なそうだし行くかね」
「…待つ気無いわよね」
「女の支度は長くてなんぼだが、時は金なりだ」
「は?時間は売れないわ」
「仕事は時間と労力だぜ?数オコン掛けてミズゲルの核千個採っても五千ヤンにしかならん」
「はぁ、待つのが勿体無いって事ね」
男二人を浮かせて足場に降りる。仮設の梯子が掛かっているが、不安なので使わない。
目の前にクパッと開いた亀裂は、大人が一人入れる程度の幅があり、中は真っ暗で何も見えない。確かにこれなら不自然だ。梯子を降りる女を待たず、男二人を放り込み、ダンジョンの中へ突入した。
ダンジョンの中は真っ暗で、明かりが無くては仕事にならんが、《感知》の使える俺には全く問題無い。壁は上下段で意匠が変わり、装飾なのか柱も付いてる。家の壁より良い壁だ。見た感じ遺跡型ダンジョンってヤツだな。
「ちょ、待ちなさいよ。何処居…居た!」
魔力視でも使えるのだろうか。ダンジョンに入って来た女が愚痴る。けどあんな足場で待つのは自殺行為に他ならん。とっとと入って中で待つのが正しい判断だ。
「そろそろそれ、何とかしなさいよ。使い物にならないじゃない」
「使い物じゃないし、このままで大丈夫だろ」
「あがっ!あばがっ」
ボールギャグの男は此処に来る迄ずっと暴れていたが、浮かせてあるので五月蝿い以外は問題無い。
「さて、歩け。歩けー」
《威圧》を纏った男がのっそりギクシャク歩き出す。ボールギャグの男は顔を引っ張られるようにそれに続く。俺は《感知》で階層を見渡し、雑木の薄板の表面にトレース台の如く投影し、ボールペンで道をなぞって行く。
「あんた何してんのよ。見失うわよ?」
暫く一本道だし平気だろ。
「ああ、見えないのか。明かりも付けなきゃな」
前の二人を呼び寄せて、光の棒を灯して《威圧》の男にくっ付けると再び先行させた。
「まさか、人柱にするつもり!?」
「ははは、あの二人なら大丈夫だろ。こんな所で殺られるようなら、このダンジョンは使い物にならんって事だしな」
カランカランカランカラン
二人の近くから音が鳴る。入ってまだ直ぐだと言うのに罠でも踏んだか?音と共に、道の先で動く者の反応が現れる。どうやら鳴子だったようだ。メモメモ…。
「何してんのよ!?敵よ!」
召喚されたのはブフリムか。ぺたぺた走ってやって来る幾つもの足音に、ギャグボールの男も背中から短剣を抜いた。しかしそれは徒労に終わる。
「鳴子にブフリム三十四…っと…良し。さて行くか」
「き、消えた…?」
出て来たのなら消える事もあるだろう。狼狽える女をスルーして歩みを進めさせた。
「今の罠、Cランクで殺り切れると思うか?」
「え?そ、そうね…数が多いけど、通路は狭いしちゃんとした構成なら…、ゴミしかドロップしないだろうし、踏んでも無駄ね」
「袋の中身しか期待出来んか」
「あんた倒したんでしょ?何拾ったのよ」
「検めて無いし、後でな」
ゴミに興味のある女をスルーして、湧き出す敵を消して行き、その都度メモを取って進む。
「階段ね」
「そうだな。先に進むかフロアをもっと見に行くか」
「進む以外の選択肢は無いわよ」
「ならば敢えて探索を続けよう」
「何でよ!?」
「一階から罠があるダンジョンだぞ?あれ一つな訳が無い。調査すべきだろ」
「はあ?そんなの他の奴等に任せたら良いじゃ無い」
「それが仕事だろ」
「ならあんただけで行きなさいよ。こっちは先に進むから」
「調査に不備が出るからダメだ」
「私には関係無いっ何?浮いてっ!?きゃあっ」
眉間に皺を寄せる女を浮かせ、無理矢理連れて行く。騒がしいのが二人になってしまったおかげで敵が来るのも早い気がする。メモを取り、敵を消したら先を進み、罠を踏ませ、メモを取る。そうしている内に二人は静かになった。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~
BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】
異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。
原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。
初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。
転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。
前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。
相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。
その原因は、相方の前世にあるような?
「ニンゲン」によって一度滅びた世界。
二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。
それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。
双子の勇者の転生者たちの物語です。
現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。
画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。
AI生成した画像も合成に使うことがあります。
編集ソフトは全てフォトショップ使用です。
得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。
2024.4.19 モチ編スタート
5.14 モチ編完結。
5.15 イオ編スタート。
5.31 イオ編完結。
8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始
8.21 前世編開始
9.14 前世編完結
9.15 イオ視点のエピソード開始
9.20 イオ視点のエピソード完結
9.21 翔が書いた物語開始
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる