上 下
1,099 / 1,519

優しい言葉

しおりを挟む


「カケル殿、何故メリクヒャー家に?」

「このような時間に女しか居ない屋敷へ来るのは些か礼を失しては居るまいか」

 女騎士がそう言って困った顔をする。俺だって分かっとるわ。

「夜分失礼。俺の妾達が疲れてはしないかと思ってな。少しばかり家主とメイドを借りに来たのだ」

カロは何も言わない。夫人の答えに従うつもりか。

「カケル様、私共は、お邪魔で御座いますか?」

「真面な貴族の家ならば問題無いが、此処は家主にメイドが一人。手が足りないのは見て分かるだろう。長居すべきでは無かったな」

夫人の質問にそう返すと女騎士達が俺と夫人達の間にズイズイッと立ち塞がる。

「お止めなさい」

「ですが」

「お止めなさい。
…カケル様、私達の行く宛が此処しか無かった事、ご承知下さいましね?」

「分かってるさ、男の家には行けないからな。だが宿もあるだろ?」

「カケル殿。それが無いのだ」

「は?」

女騎士曰く、宰相夫人の泊まる宿はこの街に無いと言う。身分ある者の泊まる宿は、それに見合った格が必要であるそうなのだ。全く馬鹿馬鹿しい。

「良いように使われたな、カロ」

ピクリと体を震わせて、それでも耐える。

「ハイネルマールのトコ行ってメイドの二三人借りて来い」

「カケル様、私では足りませんか?」

「足りん。頭数が全く足りてない」

アルネスの言葉を斬り捨てる。

「カケル殿、私共が言うのも何だが、それではハイネルマール様に貸しを作ってしまう」

「そもそも男爵家に公爵家が行くのがおかしな話だろ。金で済む借りなら幾らでも借りて来い。カロ!」

「っ!はいっ」

「俺を頼れよ。これでも一応王だぞ?」

「はい。…はい、申し訳、ございません…」

カロに一筆書かせて、明日アルネスに持たせる事となった。

「では二人を借りて行くぞ。シンクはどうする?」

「只今お連れします」

「寝ていたらそのままにしとけ。三十リットもしたら戻るからな」

夫人達に有無を言わせず、カロとアルネスを施設へと連れ出した。

「何で直ぐに助けを呼ばなかった?」

「申し訳ございません」

「家政婦組合とかに頼んでるモンだと思ってたよ」

「申し訳ございません…」

目の前に用意されたお茶に手を付けず、カロはずっとこの調子だ。そこにアルネスが割って入る。

「カケル様、それは出来兼ねます」

「格の問題だな?ならフラーラやノーノを借りに来いよ。それなら貸し借り無いだろ?コッチも世話になってんだからさ」

「それは、畏れ多い…」

「だろうと思ってハイネルマールの名を出したが、俺達を頼るのはそんなに嫌だったか」

「そんな事はっ」

「カケル様、全ては私の責めです。アルネスは何も悪くありません。どうか、どうかっ」

「奥様っ」

「見損なうなよ?俺はお前等の為ならどんな事でもするからな?それと、怒ると叱るを履き違えるな」

「「はい…」」

「カケル様、そのくらいで。お二人はお風呂に浸かって、ゆっくり休んでください」

シャリーが見兼ねて割り込んだ。冷めたお茶を飲んで俺も落ち着こう。

「優しい言葉を掛けてあげたら良かったのに」

二人が浴室へ向かうと、シャリーが口を開いた。

「つい悲しくなってな。頼ってもらえない自分に腹が立った」

「立場、ですかね」

「金があっても、強くても、地位まであるのに、俺は舐められるんだな」

「それは違いますよ。カロ様の性格もあるのでしょうね。少なくともバルタリンドに来てからは、人に頼る生き方なんてしてなさそうですし」

「…かもな」

「そろそろ行ってあげてください。今度こそ優しい言葉を掛けてあげてくださいね?」

答える間も無くシャリーに押され、サロンへ追い出された。

「カケル様…」

「あっ…」

「……さっきは言い過ぎたよ。ごめん」

浴室で二人と対峙し、俺は折れる。

「此方こそ、カケル様のお手を取らず、固執してしまいました」

カロが湯の中で頭を下げる。溺れるぞ?

「私も盲目でした」

アルネスよ、お前もか。








しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界帰りの【S級テイマー】、学校で噂の美少女達が全員【人外】だと気付く

虎戸リア
ファンタジー
過去のトラウマで女性が苦手となった陰キャ男子――石瀬一里<せきせ・いちり>、高校二年生。 彼はひょんな事から異世界に転移し、ビーストテイマーの≪ギフト≫を女神から授かった。そして勇者パーティに同行し、長い旅の末、魔王を討ち滅ぼしたのだ。 現代日本に戻ってきた一里は、憂鬱になりながらも再び高校生活を送りはじめたのだが……S級テイマーであった彼はとある事に気付いてしまう。 転校生でオタクに厳しい系ギャルな犬崎紫苑<けんざきしおん>も、 後輩で陰キャなのを小馬鹿にしてくる稲荷川咲妃<いなりがわさき>も、 幼馴染みでいつも上から目線の山月琥乃美<さんげつこのみ>も、 そして男性全てを見下す生徒会長の竜韻寺レイラ<りゅういんじれいら>も、 皆、人外である事に――。 これは対人は苦手だが人外の扱いはS級の、陰キャとそれを取り巻く人外美少女達の物語だ。 ・ハーレム ・ハッピーエンド ・微シリアス *主人公がテイムなどのスキルで、ヒロインを洗脳、服従させるといった展開や描写は一切ありません。ご安心を。 *ヒロイン達は基本的に、みんな最初は感じ悪いです() カクヨム、なろうにも投稿しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

処理中です...