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袖の下

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 鉄貨から金貨迄を各千枚、百十一万一千ヤン。ギルド証から降ろしてもらう事になった。

「ギルドから金が無くなっちまうぜ」

「問題ありません」

ジョンのボヤキへの反応は力強い。それだけトカゲの魔石の売れ行きが良いのだろう。

「少しでも使って貰わないと経済が回りませんからね」

「賢いな。甘納豆をあげよう」

「有り難き幸せ」

皆でお食べと袋を渡すと、女職員のペースが上がる。袖の下一つで円滑に仕事が回るなら安いもんだ。原材料代掛かって無いし。

「所で神様、新たな事業の立ち上げは如何なる物で?」

「神様じゃ無いんだが、女性用の入浴施設を作ったんだ」

「は?公共浴場の無い街なので?」

それなら男女共作らなきゃダメでしょ。

「あるけど、あっちは壁越しに男女の湯があるじゃん?」

「ええ、ありますね」

「男湯は静かなモンだが、女湯からは誰かしらの声がずっと聞こえて来るんだ」

「!?ジョン様、それは確かで?」

「お、おう…。聞こえては来る…な」

男湯に浸かる男共は殆ど口を開かない。精々ふぅ~って息を吐く程度。身振り手振りで会話して、胸筋ピクピクさせている。
ジョンの答えを聞いた女性職員が硬直した。

「お湯の濁りも気になるし、薪で湯沸かしする老人を見たら、魔石で湯を出す方が良いと思ってな」

「湯の出る…属性魔石ですか。素晴らしい着眼です。私達の街にも是非!」

「う~ん、土地は更地があるけど商業ギルドが買い占めたんだろ?触れないよ」

「やっぱ城作るみてぇだぞ」

「それに、公共浴場を新設したら良いだけだしな。俺が作ったのは自分等の住居も兼ねてるからさ」

「分かりました。領主様に掛け合ってみます。ですので、許可の取れた暁には是非技術のご指導を」

「土地が無ぇってのに大丈夫かねぇ」

「橋の袂から壁を建てる計画もありますし、それに乗じて捩じ込んで見せましょう」

…まあ何だ。頑張れ。湯周りの指導はするが、時間云々はオミットするかな。


 ギルドから出て空に上がろうとすると、ペニスケに《威圧》が飛んで来た。ギュッと掴まれる感じ、癖になりそ。仕方無く、路地の中へと入ってく。

「カケル様、ご無沙汰しております」

「貴様か」

この大陸で俺に感じる程の《威圧》を当てられるのはそう多くない。その少ない中の誰かと思っていたが、壁から顔だけ出してペコリと頭を下げたのは貴様だった。

「お風呂楽しみです」

流石の諜報力だ。

「バルタリンドだぞ?来れるのかよ」

「招いて下さらないと?」

「テッチーやティータの付き添いでなら来ても良い。が、他の仲間に恨まれても知らんぞ?」

「秘密は厳守します」

「拷問受ける前には吐けよな?それと、何でそんな所に隠れてたんだ?」

「隠れ家の一つなのです。良かったらお茶でも」

招いてくれるのなら招かれるのが大人のマナーだ。背を向け歩き出す貴様の尻を追い掛けて、人一人歩くのがやっとの狭い路地へと入って行った。

「此処がお前達のアジトか」

ドアを開けたら道が塞がる。そんな立地のドアを開け部屋の中へ誘われると、ドアが閉まり明かり無く薄暗い室内をスタスタの慣れた足取りで奥へと進む貴様の後に着いて行く。

「階段を出しますのでお待ちを」

階段の裏に回り込み、床を上げると隠し階段。ならこの階段の上は何なんだ?

「上が気になりますか?」

「建物を見ると感想を述べたくなる性分なんだ」

「ブルラン様達に受け入れられてましたね。唯のおべっかかと思ってました」

「元々は建物を評論する人の物真似だったんだが、何時の間にか自分も好きになってたんだ」

「面白い話を聞けました。ささ、お先にどうぞ」

木製の梯子を降りる。見上げると貴様のパンツがあるのだが暗くて見えない。《暗視》が良い仕事をする。

「ふふっ、足元には気を付けて下さいね」

浮き上がり、貴様の尻に顔を埋めて降りて行くと部屋になっていて、絨毯が敷かれ、テーブルセットやソファーが置いてある。

「この奥です」

此処では無いらしい。部屋の奥のドアを開けて中に入ると上向きの階段。他の建物に繋がってる訳か。

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