上 下
1,050 / 1,519

袖の下

しおりを挟む


 鉄貨から金貨迄を各千枚、百十一万一千ヤン。ギルド証から降ろしてもらう事になった。

「ギルドから金が無くなっちまうぜ」

「問題ありません」

ジョンのボヤキへの反応は力強い。それだけトカゲの魔石の売れ行きが良いのだろう。

「少しでも使って貰わないと経済が回りませんからね」

「賢いな。甘納豆をあげよう」

「有り難き幸せ」

皆でお食べと袋を渡すと、女職員のペースが上がる。袖の下一つで円滑に仕事が回るなら安いもんだ。原材料代掛かって無いし。

「所で神様、新たな事業の立ち上げは如何なる物で?」

「神様じゃ無いんだが、女性用の入浴施設を作ったんだ」

「は?公共浴場の無い街なので?」

それなら男女共作らなきゃダメでしょ。

「あるけど、あっちは壁越しに男女の湯があるじゃん?」

「ええ、ありますね」

「男湯は静かなモンだが、女湯からは誰かしらの声がずっと聞こえて来るんだ」

「!?ジョン様、それは確かで?」

「お、おう…。聞こえては来る…な」

男湯に浸かる男共は殆ど口を開かない。精々ふぅ~って息を吐く程度。身振り手振りで会話して、胸筋ピクピクさせている。
ジョンの答えを聞いた女性職員が硬直した。

「お湯の濁りも気になるし、薪で湯沸かしする老人を見たら、魔石で湯を出す方が良いと思ってな」

「湯の出る…属性魔石ですか。素晴らしい着眼です。私達の街にも是非!」

「う~ん、土地は更地があるけど商業ギルドが買い占めたんだろ?触れないよ」

「やっぱ城作るみてぇだぞ」

「それに、公共浴場を新設したら良いだけだしな。俺が作ったのは自分等の住居も兼ねてるからさ」

「分かりました。領主様に掛け合ってみます。ですので、許可の取れた暁には是非技術のご指導を」

「土地が無ぇってのに大丈夫かねぇ」

「橋の袂から壁を建てる計画もありますし、それに乗じて捩じ込んで見せましょう」

…まあ何だ。頑張れ。湯周りの指導はするが、時間云々はオミットするかな。


 ギルドから出て空に上がろうとすると、ペニスケに《威圧》が飛んで来た。ギュッと掴まれる感じ、癖になりそ。仕方無く、路地の中へと入ってく。

「カケル様、ご無沙汰しております」

「貴様か」

この大陸で俺に感じる程の《威圧》を当てられるのはそう多くない。その少ない中の誰かと思っていたが、壁から顔だけ出してペコリと頭を下げたのは貴様だった。

「お風呂楽しみです」

流石の諜報力だ。

「バルタリンドだぞ?来れるのかよ」

「招いて下さらないと?」

「テッチーやティータの付き添いでなら来ても良い。が、他の仲間に恨まれても知らんぞ?」

「秘密は厳守します」

「拷問受ける前には吐けよな?それと、何でそんな所に隠れてたんだ?」

「隠れ家の一つなのです。良かったらお茶でも」

招いてくれるのなら招かれるのが大人のマナーだ。背を向け歩き出す貴様の尻を追い掛けて、人一人歩くのがやっとの狭い路地へと入って行った。

「此処がお前達のアジトか」

ドアを開けたら道が塞がる。そんな立地のドアを開け部屋の中へ誘われると、ドアが閉まり明かり無く薄暗い室内をスタスタの慣れた足取りで奥へと進む貴様の後に着いて行く。

「階段を出しますのでお待ちを」

階段の裏に回り込み、床を上げると隠し階段。ならこの階段の上は何なんだ?

「上が気になりますか?」

「建物を見ると感想を述べたくなる性分なんだ」

「ブルラン様達に受け入れられてましたね。唯のおべっかかと思ってました」

「元々は建物を評論する人の物真似だったんだが、何時の間にか自分も好きになってたんだ」

「面白い話を聞けました。ささ、お先にどうぞ」

木製の梯子を降りる。見上げると貴様のパンツがあるのだが暗くて見えない。《暗視》が良い仕事をする。

「ふふっ、足元には気を付けて下さいね」

浮き上がり、貴様の尻に顔を埋めて降りて行くと部屋になっていて、絨毯が敷かれ、テーブルセットやソファーが置いてある。

「この奥です」

此処では無いらしい。部屋の奥のドアを開けて中に入ると上向きの階段。他の建物に繋がってる訳か。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

女神の使徒になったけど~女神が働かないので実質私が女神~

ささみ
ファンタジー
この物語はとある女の子が神様の手伝い、と言うより神様の仕事を代わりにする話 「よ〜し、勇者のサポートしよっと」 『アリアちゃ〜ん!助けて〜!』 「またかよ!?」 『間違えて神器落としちゃた〜』 「何してるのさ全くも〜」 こんな感じのゆるい女神とゆるい女の子が自由に生きるものが「私を忘れるなです!」 あっ、 ……こんな感じのゆるい女神とゆるい女の子、あとよく忘れられる妖精の物語 「よく忘れられるなんて酷いです!!!」 注意 めちゃくちゃ不定期です プロローグ以降は絶対に2000文字以上書くのは辞めました

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【無双】底辺農民学生の頑張り物語【してみた】

一樹
ファンタジー
貧乏農民出身、現某農業高校に通うスレ主は、休憩がてら息抜きにひょんなことから、名門校の受験をすることになった顛末をスレ立てをして語り始めた。 わりと強いはずの主人公がズタボロになります。 四肢欠損描写とか出てくるので、苦手な方はご注意を。 小説家になろうでも投稿しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

処理中です...