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名前も忘れた国

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 施設での飲食を女達に任せ、俺は今日も宿題に取り掛かる。物を《転移》させる練習だ。食堂では何やかんやと姦しいので母屋の居間に移動した。
ソファーに座って《感知》でターゲットを選ぶ。《転移》させるのは窓際に鎮座する小さな水滴型のミスリルだ。メタリックブルーの彼奴だが、逃げずに《転移》させてくれる筈である。
ターゲットを絞ったら、《白昼夢》で転移先の座標を決める。部屋で失敗して爆発とかしたらテイカに嫌な顔をされるので、転移先は玄関の階段を降りた先にした。

《転移》を発動すると、小さな金属はその場から音も無くフッと消えた。そして転移先の地面にポトリと落ちたのが《白昼夢》からの視点で確認出来た。感覚としては《収納》した物を離れた所に置く感じに近い。次は雑木の切れ端…成功。魔力の減りは殆ど感じないな。
ミスリルと雑木を回収し、テーブルに色々置いて行く。魔力との親和性の高いミスリル粒に、親和性の低い鉄粒と有機質の雑木球、魔石としてミズゲルの核、そして生きた植物である雑草だ。雑草は玄関前に生えてたのを根毎取り出して《洗浄》してある。
転移先はミーネの営巣してた火山島に決めた。彼処なら爆発しても被害は少なかろう。

 座標を決めてミスリル粒。《転移》させると先程同様フッと消えて、火山島の地面の上を跳ねて転がり、隙間に挟まった。
他の素材も《転移》させ、再びテーブルの上に戻す。

「…ふぅ」

取り敢えずは上手く行った。魔力の減りは微々たる物だが、この微々たる物が厄介だ。距離が伸びると消費が増える事が判明したのだ。シルケと地球がどれだけ離れているか分からないのだから、魔力タンクが幾つあっても怖い。

 送った物を回収し、ソファーに寝そべり考える。勇者召喚を準備していた時に感じた魔力は、自称魔力自慢が精々百人そこらの魔力に感じた。イゼッタ一人にも満たない魔力で出来るのには何かカラクリがある筈なのだ。面倒臭いが参考になるかも知れない。名前も忘れた国に行く事を決めた。

「ウルルゲン王国のタイメワノール」

寝室でイチャイチャしながら、イゼッタに教えられて思い出す。タイメワノール、タイメワノール…。

「人の子の転移魔術を調べに行くのですねぇ?」

「ああ。長距離の《転移》は魔力が減るから出来るだけ魔力を節約させたいんだ」

「カケルさんならどんな所でも大した量にはなりませんよ」

自室に戻らずイチャイチャに参加するリュネはそう言ってくれるが、それはシルケの中で使う分に限っての事。俺がするのは何光年、何億光年と離れた場所なのだ。下手すると干からびて死ぬ。
イゼッタが遊びに行きたいと言い、シャリーがお供に着いて来る。賢者ノーノをリアに借り、リュネも着いて来るそうなので総勢五人でウルルゲン王国へと向かう事になった。

 そして翌日。朝食を終えた俺達はUFOに乗り込み空に上がる。

「カケル、また途中で降りる?」

「今回はギルドに寄らないし、直接行って良いだろう」

  「王族に謁見するのでしたら先触れを出すべきかと」
「先触れなぁ…。それだと時間が掛からないか?」

謁見の内容を教えておく事で会う時間を決めたり資料を纏めたりする事が出来るのだとノーノは言う。政治家の話し合いもそんな感じだし、時間が掛かるのも無理は無いか。

「だが先触れの当てが無いよな」

「穴でも空けますぅ?」

それが一番早いだろう。この間みたいに屋根を切っても良いよな。しかし代替案が出た。

「カケル、叔母様にお願いする」

イゼッタが親戚を当てにすると言うのだ。

「叔母様って?」

「タイメワノールの隣の領地に嫁いだ叔母様」

「奥様に続けますね。叔母様はミシュルキー伯爵夫人と言いまして、タイメワノールの西にあるカゲンノウ領の領主、アンデリー伯爵の奥様になります」

「夫人で爵位持ち…で良いのか?」

「ご明察。私は一度だけお顔を拝見しただけですが、魔法研究に於いて伯爵号を賜れたそうです」

当てずっぽうが当たった。
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