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難儀な龍
しおりを挟む窓や扉はテイカに任せるつもりだが、肝心のテイカが帰って来ない。直ぐに作業が出来るよう、材料を揃えておくか。玄関前に、色々材料を置いていく。太さを分けた雑木の角材に板。ゲル版。シルケじゃまだ作れない細釘に木釘をたんまりと。
「テイカの奴、帰って来ないな」
「…買い物中、ですね」
リュネが言うのだ、間違い無いだろう。
「まだ掛かりそうって事か」
「どうでしょうねぇ」
待ってるだけでは無駄なので、他の作業をしておくか。煉瓦で作った円筒の天辺に魔石が仕込めるように窪みを開ける。
「リュネ、頼めるかい?」
「はぁい、良いですよ~」
ダンジョン産の魔石を固め、魔力を込めて幾つか手渡すと、水魔法と火魔法を両手に出して、ササッと属性魔石に変えた。そして浄化の属性魔石と共にクリスタルもどきで包み込んだ。
「密封しちゃってるけど水出るのか?」
「大丈夫でぇす」
リュネが言うのだ、大丈夫なのだろう。
円筒にセットして、ほんの少しの魔力を流すと本当にお湯が出た。真上に飛び出て噴水状態。門の外から歓声が聞こえて来る。
短い円筒に十字の溝を掘って蓋にするが、横に飛び出しやり直し。回転させたらスプリンクラーじゃないか。本体の先を斜めに削り、尖らせる。蓋側はスポッと被せて形を固定し、湯を流す十字の溝を切った。今度は上手く下側へ飛ぶようになった。それでもまだ打たせ湯だな。やり直し。
一度円筒を作り直し、円筒の真ん中に貫通する穴を開けて凸型の蓋を付ける。円筒の底、横に穴を開けて湯道にし、最後に全体をスカスカにして固めた。これでどうだ?魔力を流すと下の穴からドバドバと流れ、穴に蓋をすると円筒全体からジュワーッと溢れ出るようになった。これ良いな。湯に沈めて風の属性魔石入れたらバブルバスにならないか?夢が広がるぜ。
「ちょっと熱いでしょうか?」
ジュワーッとしてるお湯に手を付け、リュネは言う。
「浴槽に溜まるうちに下がるさ。早速お湯を溜めてみよう」
三人で浴室に戻り、深い浴槽の中央に設置すると下の蓋を外し、魔力を込めてお湯を出す。湯気が出て、気持ち良さそうだ。家の分含めて同じのを三つ作って起動させ、給湯速度を四倍にした。
「この大きさの魔石でお湯を出し続けたらどれくらい持つのかな?」
「どうでしょうねぇ…。百年くらいは持つでしょうか」
「多分もっと持つ。先に浄化のが切れちゃう、かも」
「ああ、そっちはミズゲルだもんな」
魔石回路は作り直す事にして一旦保留。お湯を溜めながら、クリスタル照明にも着手する。リュネがムンッと何かをし、部屋の隅と天井からニョキニョキと、ほんのり白くて立派なクリスタルが生えて来る。休憩室の天井一面には薄いのが貼られていた。
光の魔石を作るのは俺の仕事のようだ。魔石を固めて魔力を込めて、光の精霊にお願いする。
「光の精霊ミティオース様、脆弱なる人の子に、僅かばかりのお力をお与えくださいませ。我が指先をほんの小さな明かりで灯し給え…」
「うふ、うふふふ」「なんぞ?」
「…指先って言ってんのに…」
何故全身光るのか。目が潰れる程の明かりでは無いのが唯一の救いだが、外に出たらギャラリーが何言うか分かったもんじゃ無いぞ。リュネはこうなると見込んで笑っとるし、ネーヴェは初めて見たので不思議がってる。
「リュネ、助けて」
「放っておけばその内収まりますよ、ふふっ」
「ネーヴェェ…」
「煌龍、思い出した。いつも光ってた」
難儀な龍も居たもんだ。俺も我慢する他無さそうだな。浴室と休憩室に属性魔石を取り付けて、地下道から部屋中にクリスタル照明を付けて回った。
「カケル様、何時にも増して神々しいです」
「只今戻りました。途中で会ったので着いて来られてしまいました」
荷物を担いだエージャとテイカが帰って来た。二人共、パルクールで壁登りして来たのか。材料はあるので作成を任せ、俺は休憩室にマット敷いて寝る。勿論光が消える迄、だ。
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