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美味いモンは美味い
しおりを挟むやってしまった。
プリキオーネに女達が増やしたアイツに跨って、辺りは真っ暗。すっかり夜の帳が降りていた。
「これが風呂なのね」
「気持ち~でしょ~」
「分からないわね。けどまあ、体が温まるのは良いのかもかしら」
人質にされてたってのに良い気な者だ。俺はと言うと、浴槽の角で小さくなって、主にリュネに対する謝罪の言葉を考えていた。
「カケル様、貴方のせいでは無いでしょう?死ぬのは嫌だけど、私が全て負うわ」
「私も迂闊でした。一緒に謝罪させていただきます」
プリキオーネの言葉をアズが追う。
「オレ達も勘違いしちまってたし、頭下げるよ…」
「私も。ごめんね旦那ァ。赤ちゃん、欲しかったな…」
「過ぎた事だ、仕方無いさ。俺がきっちり頭下げるし、お前達は悪くない。それより飯にしようぜ、腹減っちゃったよ」
努めて明るく振舞って湯から上がった。
星空の下で明かりを灯し、テーブルに料理を並べてく。薄ソーサーに薄焼肉とスープ。そして作って寝かせてあった塩釜焼きに煮肉。プリキオーネの前には更に一品、生肉が据えられた。
「これは生肉よね」
「食べ比べしてもらおうかと思ってな。煮た肉と厚切りの肉にはこれを付けて食べても良いぞ」
大根みたいな野菜を粗めのペーストにした物と、トマトっぽい味の野菜のペーストをソースとして添えてある。シャリシャリ感と酸味で味変してもらうつもりだ。
シトンとアズはカトラリーを使ってキレイに食べる。ワーリンとキキラも理性を取り戻したかのようにカトラリーを使って食べた。
「人の子はそんな物を使って食べるのね」
「手掴みや顔突っ込んで食べると汚れちゃうからな。因みに皿を舐めたりもしないんだ」
「「ごめん…」」
「ケモノの真似をさせられた訳ね」
フォークとスプーンを持って、周りを見ながら食事に手を付ける。やはり一番に手を出したのは生肉であった。
「肉なんて何百年振りかしら」
さっき食ったからさっき振りですよ。
一口大に切り分けられた生肉に、フォークを刺して口へと運ぶ。俺も刺身が食べたい。
「なあお前さん、生肉って美味いのかい?」
羨ましそうな目でもしていたか、ワーリンが問い掛ける。
「ちゃんと処理してあれば人の子でも少しは食えるし、美味いモンは美味い。だが止めといた方が良いだろうな。俺は生魚が好きだが危険過ぎて我慢してるし」
「そんな物《消化》してしまえば良いのよ。貴方なら出来るでしょう?」
「真似して腹痛くなられても困るからなぁ」
プリキオーネはスキルを使って食えと言うが、俺以外だとそう簡単にスキルを増やせないからな。
「やっぱり肉は美味しいわ。もっと血が乗ってると良かったのだけど」
しっかり血抜きしたからな。生肉を食べ尽くし、仕方無しに厚切り肉に手を伸ばす。
「ん…、んく。肉と…塩の味ね。草の香りもするかしら」
一言二言言いながら、結局ソースも付けて全品食べ尽くしていたよ。
「肉を食べられない人の子の、努力と試行の結果なのね。熱を帯びて溶けた脂と塩の調和は肉にも劣らないわ」
ソーサーとスープ以外は肉なんだけどな。
食事を終えて、お茶を飲み、プリキオーネは自分の巣へと帰って行った。帰った後で、帰って欲しくなかったと思った。《結界》の外でモンスター共が夜鳴きするのだ。犬系はまだ聞き慣れた声だが、恐竜系がとにかくデカい。映画で聞いた鳴き声と違うのは地球のとは違う進化をしたからだと思われる。キョエー!とかブオーッ!とかそんな感じ。我慢し切れず《結界》を更に二重に張って、やっと寝られた。
朝になり、食事や準備を済ませたら、来た道を戻って狩りをしながら帰路に着く。本当はマラソンしてドロップを溜め込みたかったが、詫びを入れるのが先だろうからな。プリキオーネに一言挨拶したかったが、顔を見せないので言えず終いだった。
家に着き、女達に迎えられてリュネの元へ。土下座した。
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