915 / 1,519
少し迷った
しおりを挟む地下二十一階。明らかに敵か強くなった、と思う。感知能力に優れ暗闇から素早く攻撃して来る蛇の魔獣に、壁や天井に張り付いて毒を吐きかけるヤモリっぽいのが罠と同時に襲いかかって来る。
普通の冒険者なら大変だろうな。攻撃も毒も《結界》に阻まれ効果を成さず、脳味噌スカスカにされて煙に変わるので、小さな魔石を拾うだけの簡単なお仕事だ。
「これは…、食えるのか?」
煙になったヤモリっぽいのから白い玉が落ちて来て、ポンポンと床に跳ねる。少年用軟球程のプニプニとしたそれを拾い上げ、《鑑定》すると卵と出た。フォークの握りをしてみるが、一応食べられるみたいだし、回収して先へと進んだ。
代わり映えの無い階層を下り、地下三十階。ボス部屋前に到着する。此処迄は普通の冒険者でも来られるようで、途中何組かのパーティーの反応があった。普通の冒険者が毒対策をどうしてるのか気になる所ではあったのだが、飯の種になってそうだし敢えて我慢したよ。
ボス部屋前は誰も居らず、戦闘中でも無いようだ。扉を開けて中に入る。
部屋に入って間も無く、部屋全体に広がる大小様々な魔法陣が無数に展開された。キレイで見蕩れてしまいそうになるが、此方も部屋全体に《結界》を張って対応する。
魔法陣から現れようとする敵が、《結界》に押し付けられ出られない。魔法陣から押し出され、結界に押し付けられた魔物は板挟みとなり、潰れて煙となる。
こりゃ誰も近寄らん訳だ。煙に変わる寸前の敵を見て少し後悔した。お肉がこびり付いた骨でした。ゾンビと言うか、スケルトンと言うか、その中間くらい。人の姿に動物も見てしまった。恐怖には耐性があるので差程でも無いが、気持ち悪さが強い。学生の頃に生きた鶏を締め、シルケでもゴーラやトカゲを捌いて来たが、それはそれ、これはこれ。ドロップ回収したら休憩しようと思う。箱の中身がお肉とかじゃ無くて本当に良かった。
休憩を済ませて階段を降り、地下三十ー階。此処からは情報も金になると言うので雑木紙にボールペンを用意して、階層内を隈無く移動して回る。
《感知》にて階層の全体を把握したらトレースしてマッピング。出来上がった地図に、敵の種類と量と出現場所、罠の種類と位置、箱の場所と罠の有無を書き込んで完成。正確過ぎて買取価格が想像も付かん。そして一枚書き上がるのに時間が掛かる。敵の名前が分からないのが困り物で、《叡智》を使っても分からないのだ。ミーネが以前言っていた、人は何でも名前を付けたがると言う言葉を思い出した。
猫は自分を猫とは名乗らん。名前も付けない。
一枚に一オコン強掛かり、昼飯?を挟み、三十五階迄書き終えて再び腹が減る。きっと夕食の時間だろう。下への階段のある部屋で今夜は野営する。
乾燥野菜と薄切り肉を鍋にぶち込み、塩と香辛料で味を整え、水分少なめで硬練りにした溶きマタルを小分けに入れて火を通し、水団鍋にした。慣れた味だがやはり醤油か味噌が欲しい。
仮眠して、回復と《洗浄》を掛けて目を覚ます。体感的にはまだ夜の筈だが、隣に女でも寝てなけりゃ寝ててもつまんないので仕事仕事。
マッピングはだいぶ慣れて来た。敵の数は変わるだろうから大体の数で良いし、箱に掛かってる罠だってランダムの筈だ。初見の階層に来て罠を警戒しない冒険者はダンジョンの餌になれば良い。だが三十八階で少し迷った。
隠し扉を書くべきか。
これは書かない方が良いだろうな。出来れば普通の冒険者には見付からないで欲しい。入ったら死ぬだろうし。俺は《感知》で見えているので中の様子が丸分かりなのだが、これは多分罠部屋だ。短い通路を抜けるとそこそこ広い部屋の中央に箱がある。《結界》を二重に掛けて隠し扉を押し開けた。
…やっぱり罠部屋だった。部屋に入ると、中央に置かれていた箱が地面に埋まって石畳で塞がれてしまった。勿論扉は塞がれて開かない。ちょっとイラッとした。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
俺の性癖は間違っていない!~巨乳エルフに挟まれて俺はもう我慢の限界です!~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
ある日突然、見知らぬ世界へと転移してしまった主人公。
元の世界に戻る方法を探していると、とある森で偶然にも美女なエルフと出会う。
だが彼女はとんでもない爆弾を抱えていた……そう、それは彼女の胸だ。
どうやらこの世界では大きな胸に魅力を感じる人間が
少ないらしく(主人公は大好物)彼女達はコンプレックスを抱えている様子だった。
果たして主人公の運命とは!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
追放シーフの成り上がり
白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。
前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。
これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。
ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。
ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに……
「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。
ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。
新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。
理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。
そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。
ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。
それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。
自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。
そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」?
戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる