907 / 1,519
ステンレス
しおりを挟む大きな空間の中心には穴があり、その周りを壁に沿って階段が降りている。螺旋階段だ。
「この下に封印されております」
「光が見えるよ。けど深いなぁ」
「飛んで行けば直ぐですよぉ」
確かに。エンメロイを背負って浮き上がると、ネーヴェがお姫様抱っこしろとばかりに目の前で横になる。お前、浮いてんじゃん…。そしてリュネの目にオーラが籠る。
「手、繋いで降りよ?」
「ん」「はぁい」
こうでもしないとリュネの魔力で魔王が目覚めかねんしな。仲良く竪穴を落ちて行った。
穴の底まで百ハーンくらいあっただろうか。稍あって床に足を着けられる。階段の脇には緑に光る浄化の属性魔石が安置され、中央に置かれた小さな祠から漏れ出す瘴気を浄化していた。
「此処に居るのか」
「ええ。魔王様、今この場に居る者で、魔王様が屠れる者は私と此方のカケル様しか居りません。敵にするには無謀ですので、今暫くお休みくださいませ」
エンメロイが祠に跪き、手を組んで祈る。祈りが通じたかは分からないし、瘴気の漏れ出る量も変わらない。
「では始めようか」
「ん~」「はぁ~い」
「封印ですね?」
封印は多分しっかりしてると思う。が、漏れてちゃダメなんじゃないか?リュネにも聞いてみたがこれ自体はこんなモンだと言われた。リュネによる封印の上書きに、更に浄化を増す為行動に移す。
先ずは祠の周りを《威圧》の壁で囲って型にして、中にミズゲルを流し込む。そしてネーヴェに頼んでおいた浄化の属性魔石をこれでもかと詰め込んだ。
「それだけの魔石で幾らになるのか…」
「売り難いから、家では龍のおやつになってるよ」
ミズゲルの塊を《集結》で固め、クリスタルモドキにしたら型を消す。属性魔石の詰まった円柱状のクリスタルモドキとなった。
「ネーヴェ、魔力を流しておくれ」
「ん」
ネーヴェが魔力を流し込むと、緑の光が放たれる。眩しくて目が開けられない。
「リュネ」「は~い」
リュネの土魔法がクリスタルモドキを包み込み、光が弱まる。
「リュネ、それ鉄か?」
「ええ。錆びて朽ち果てるまでは大丈夫でしょう」
「だったら、鉄の時間、とめちゃう」
そんな事まで出来るのか。錆びない鉄、凄いな。ステンレスじゃん。…と思ったら、ゲルで更に包んで固めるだけだった。確かに酸素や塩素に触れなければ化学反応しないわな。
「では、封印しますよぉ~」
「え?これからなのですか?」
「まだ封印なんてしてませんからね」
此処迄が下準備。仕上げの封印はリュネの仕事だ。祠だった物にリュネが手を翳すと結界に包まれ、更に幾つもの魔法陣が現れては結界に吸収されて行った。
「何をなさっているのか見当も付きません」
「俺もだ」
「色んな封印、付けてる」
「終わりましたよー」
色んな種類の封印を他の封印と絡ませながら施して行く事で、只でさえ難しい封印の解除をより難しくしているのだと言う。思うに、封印の一つですら、人の子の技術では無理なんじゃないか?
「千年くらいは余裕で持ちそうだな」
「所がそうでも無いんですよ。私より強い龍でしたら力で破壊出来てしまいますしね」
「例えばネーヴェとか?」
「はい。姉なら百年、ネーヴェちゃんなら一瞬で破壊出来ますよ」
「私だって一瞬はむり」
「時間操作で一瞬に出来ますでしょう?」
「その手があるか」
「そのような方々に知られないよう努めてまいります」
是非頼む。
来た道を戻って謁見の間に着くと、テーブルに食事が用意されていた。もう飯の時間なのか…。リュネとネーヴェの席もあり、何時でも始められる感じに整っていた。
「テーブルマナーには明るく無いんだがなぁ」
「気にする事はありません。カケル様が法であらせられます」
「俺がスプーン落としたら皆が落とすのか?止めてくれよ」
食事は恙無く食べられた。食べたい物を食べたいだけ取り分けてくれる方式だったので、ネーヴェは茹でた薄切り肉にソース掛けたのばっかり食べていたよ。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
亜人至上主義の魔物使い
栗原愁
ファンタジー
人生に疲れた高校生――天羽紫音は人生の終止符を打つために学校の屋上に忍び込み、自殺を図ろうと飛び降りる。
しかし、目を開けるとそこはさっきまでの光景とはガラリと変わって森の中。すぐに状況を把握できず、森の中を彷徨っていると空からドラゴンが現れ、襲われる事態に出くわしてしまう。
もうダメかもしれないと、改めて人生に終わりを迎えようと覚悟したとき紫音の未知の能力が発揮され、見事ドラゴンを倒すことに成功する。
倒したドラゴンは、人間の姿に変身することができる竜人族と呼ばれる種族だった。
竜人族の少女――フィリアより、この世界は数百年前に人間と亜人種との戦争が行われ、死闘の末、人間側が勝利した世界だと知ることになる。
その大戦以降、人間たちは亜人種を奴隷にするために異種族狩りというものが頻繁に行われ、亜人種たちが迫害を受けていた。
フィリアは、そのような被害にあっている亜人種たちを集め、いつしか多種多様な種族たちが住む国を創ろうとしていた。
彼女の目的と覚醒した自分の能力に興味を持った紫音はこの世界で生きていくことを決める。
この物語は、限定的な能力に目覚め、異世界に迷い込んだ少年と竜の少女による、世界を巻き込みながら亜人種たちの国を建国するまでの物語である。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる