上 下
905 / 1,519

別の日

しおりを挟む


 シャクリャ・オーファンシーこと大橋咲良こと、我が愛娘シンクレイアとは、少しずつだが《念話》で話をしている。魔族のエンメロイですら《念話》は数リット持たない程の魔力を使う。シンクレイアの魔力は人の子の中でもかなりあるようだ。

『何で聞かないのよ?』

『何をだ?』

『シンクレイアの、魂の事…』

『神の力でも無きゃ知った所で何も出来ないじゃないか』

『自分の娘でしょ?』

『なら聞くが、本当に、何も出来無かったら、お前はどう責任を取るつもりなんだ?』

『…私にだって分からないわよ』

『俺は条件さえ整えば神に会える。会う事が出来て、要件を聞き入れられて、あの子の魂がお前の体に入ったとして、お前はどうなる』

『…消えるのかしらね』

『俺が蘇生してから今迄のシンクレイアは別人で、これからは蘇生前のシンクレイアに戻った…って、カロに伝えるつもりか?』

『そうよね…』

『お前の事を知ってる奴は、俺と妻二人とメイドの一人に、龍だけのようだ』

『私はシンクレイア。私が、シンクレイア…。もう寝るわ』

 別の日には俺の子供の話になる。

『以前託児所みたいな所に連れてかれたのだけど、あれ何?』

『俺ん家だよ』

『って事は、他の赤ちゃん達は…』

『妾の子だよ。一人だけ俺の義理の弟が居るけどな』

『うわ、最低』

『日本のシステムと同じに考えるなよ?同意は得てるしこの世界はそう言うシステムなんだ。稼いでる者、強い者が女を養える。それが異世界シルケの理なんだよ。嫌なら浮気しない男と結ばれる事だ。パパより強い奴でな』

流石にセックスが娯楽である事は黙っておこう。

 そしてまた別の日。

『…あの時、最初に転移するって時、女神様に言われたの。今の私ではこの国の兵士には敵わないって』

『どんな扱いを受けるか、聞いたのか?』

『聞いてない。失敗するからって。空の上から見てたわ。ブレスを吐いた、あの龍が貴方なのよね』

『変身するのに二十五日掛かるんだぜ?』

『そうなのね。ん、そろそろ限界だわ。隠しながら魔力を練るって疲れるわ』

『お休み。魔力だけならシルケで二番目くらいにあるから頑張れ~』

こんな感じで勇者になった時の事やその前後の話を聞いたり、世界の情報を教えたりした。


 大橋咲良は十七歳の夏、予備校からの帰り道に見知らぬ者から刃物を突き立てられ亡くなったと言う。加害者は死刑になりたくて殺したと供述したが、結果的には死刑にはならなかったと女神に聞かされたようだ。その主な理由は死体が無かったからだ。
死に掛けの状態で女神の元に呼ばれた咲良は、女神の言葉に従って勇者の力を得て死んだ。そして、その魂は命の灯火を失いかけていたシンクレイアの中に宿ったのだそうな。

『ダンジョンにドラゴン、燃えるわね!』

ラノベ好きだと言う咲良は悪役令嬢や乙女ゲーモブと同じくらい冒険ファンタジーも好きだそうで、シルケの話をすると男の子なノリで食い付いて来る。

『十五歳で登録。んでCランクになれば入場可能だ』

『長いわ。ねえ、冒険者ギルドに知られて無いダンジョンならランクも歳も関係無いわよね?』

『それでも赤子は連れてけんだろ』

『ああ、もどかしいっ』

『魔力とスキルを鍛える期間、だな』

『龍の人に時間早めてもらっちゃダメなの?』

『時間の進みが遅い部屋に十四年も居られるなら止めはしないが』

『精神と時の…って事ね』

『残念ながらアレと違って、飯が用意出来無いんだよなぁ』

『何でよ?』

『考えて言葉話せよ?年に千食以上の食料が一瞬で無くなるんだぞ?』

『そう、だけど…そうよね。食料自給率もあるのよね』

『聡い娘を持ってパパ嬉しい』

『十七年じゃ知識チートも出来ないわよ。アルネス来たから、またね、パーパ』

三十年過ぎでも出来ないんだよなぁ。

「そろそろ着きますよ、パァパ」

「お腹すいた。パーパ」

俺は今、ネーヴェを伴い巨大リュネの背に乗って移動していた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...