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優先売買契約と言う独占売買
しおりを挟む地下五階を隈無く巡り、採るに採った繭殻は全部で百九十八個。ミミッキュからはどれも砂鉄で四匹分。使った鉄扉には全然足りないがまあ良いだろう。繭殻がこれだけ採れたので更に下に行く事はせず、汚れた全身を《洗浄》して地上に戻る事にした。
「うっ、冷たい…」
「だよな。オレなんて雪の季節にコレされたんだぜ?」
キキラが《洗浄》の不快感を呟くと、ワーリンが同意する。暖かい場所でやると少しだけ気持ち良いんだぞ?パンツが濡れるのだけはどうにも如何ともし難いが。
「なあ、この繭殻はどうやって糸を取り出したら良いんだろうな?」
「糸は糸屋だよ」
プロに任せろって事か。
「外の街にあったはずだよな、キキラ」
「ああ、今向かってんのがソコだよ」
キキラを先頭に外に出る。キキラに案内された場所は川の畔。製糸工場と言うよりは家内制手工業な佇まいの家があり、煙突からはモクモクと太い煙が上がっていた。
「繭殻を茹でるのか?」
「多分ね」
「オルグの娘のキキラだけどー、ちょっと良いかなー?」
ドカドカとドアを叩いて声を張る。この街のドアは丈夫で無いと生き残る事は出来無いようだ。
「オルグの~?今開けるよ~、何か用かい?」
ドアを開けて出て来た多分おばちゃんと思われる人物は山羊顔の獣人。おっぱいがあるし女なのはきっとあってる。
「ああ、オルグさんトコの娘だね、キレイになって。そっちの娘は?」
「オレ、ウヴァルの娘のワーリンだ。こっちの人はオレの良い人な」
「カケルだ」
「はあ~、ウヴァルさんの。暫く見ない間にこっちもキレイになっちまって」
「でさ。下で繭殻採ったからさ、糸にして欲しいんだ」
歳は分からんがおばちゃんっぽいな。話を切り上げようとキキラが商談に持ち込むが、
「今は機械が全部埋まっちまってねぇ」
湯気を出していたので何となく察していたが、こればかりは仕方無いな。
「手持ちのを糸にして布にしてもらおうと思ったが、そこまで待つのも大変だし繭殻を売って布を買おうか」
「あンたさん、外の人だね?ワーム製品は貴族にしか買えないよ。金じゃ無くて権利的な問題でね」
山羊おばちゃんが俺の意見を一刀両断する。確かに値段も高いのだが、優先売買契約と言う独占売買のせいで売り買い出来無いのだそうだ。
「国同士の商売に使ってるって言うからねぇ。あたしにゃ詳しい事ぁ分からないが、売りに行く前で良かったよ。繭殻だって売ろうモンならとっ捕まっちまうって話だよ?」
「それであんなに拾えたのか」
「ごめんな?私そこまでヤバいモンだとは知らなかったよ」
「オレもだぜ。ガキん頃は中に入って昼寝したりしてたのにな」
「今のは聞かなかった事にしとくからさ、加工するなら他所の街でやんな」
「ダメなモンは仕方無いな。忙しい所に悪かったよ」
「ふふ、忙しくは無いけどね。繭殻を煮ておけば後は機械が勝手に糸を巻いてくれるんだからさ」
「良かったらなんだが、糸作りを見せてくれないか?糸を取るのが自前で出来れば布作りが安くなりそうだし」
機械を見る機会は今迄無かったし、構造が分かれば機械に近い物を作れるかも知れない。
「お、オレはパス」
「私も…。この匂いはちょっと」
「ふふっ、お嬢さん達にはキツいかねぇ」
手で鼻を塞いで涙目になってるワーリンと、涙目まででは無いが目をショボショボさせてるキキラ。人の鼻では分からない匂いを獣人の鼻は感じているのだろう。
「俺には分からんが、鼻が良いのも大変だな。お小遣いあげるから、二人はおんもで遊んでなさいな」
「「あ~い」」
ワーリンに二人分のお小遣いを渡すと、走って街の方に駆けてった。そこまでキツいのか?
「貴女は獣人なのに平気なんだな?」
「要は慣れってヤツさ。お茶でも淹れるよ」
工場に入ってドアを閉めると、煙突から出切れない湿度でムワッとした。
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