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勇者に魔王

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『カケルだ。念話だと誰か分からんので名乗ってくれると有難い』

念話の相手にそう返すと、ホッとした吐息と共に嬉し気な声が返って来た。

『名乗りが遅れてごめんなさい。エンメロイです』

念話の相手はキネイアッセンの魔族、エンメロイだった。

『二つ問題があって連絡しました。魔力を多く使うので手短にお話します』

『分かった。話せ』

『一つ。近い内に勇者が召喚されると星見が予見しました。二つ。領内にいらしてるのに会えなくて寂しいです』

『分かった。明後日から七日以内には其方に向かう。体洗って待ってれ』

『お待ちしてい』

途中で切れた。勇んで風呂にでも行ったのだろうか。黙りこくっていた俺を見て、ネーヴェが話し掛ける。

「カケル、どしたの?」

「ネーヴェは勇者とか魔王って、見た事あるか?」

「わかんない。戦ってたりしたら、なんとなく覚えてそうだけど」

「覚えて無いか」

名前みたいな強い記憶ですらうろ覚えになると言うし、他にも知ってそうな人に聞いてみるしか無いな。

  「え?勇者に魔王、ですか?」
島に居る人種の中で、一番の識者である賢者ノーノに聞いてみた。赤ちゃんをゆらゆらしながら教えてくれたよ。

  「見た事は勿論ありませんが、書物に依ると過去に数度現れたようです」
「あべ~」

よ~ちよちよち。昼飯に呼ばれるまで赤ちゃん達を愛でた。可愛ええのぉ、可愛ええのぉ~。

「勇者に魔王?姉者は見たか?」

昼飯を食べながら三姉妹にも聞いてみた。次女は知らないみたい。末妹も同じようだ。

「私だって見た事は無いぞ?それこそ母の時代だろう」

「ママ様か」

ミーネ達を産んだ母なら何か知ってるかも知れないな。

「カケルさぁん?また行くのですかぁ?」

リュネの笑顔が怖い。

「否、この姿でママ様の所に行くのは不味かろう。年子がデキちまう」

「するのは構わんが、せめて我等が孕んでからにして欲しい物だな」

「ママ様?ママ、ママのママ?」

「そうだ。私の母で、娘の祖母だ。歳の近い叔父もいる事だし、その内顔を見せに行ってやろう」

「楽しみなの!」

「私も会いたいかも」

ネーヴェもママ様に会いたいと言う。

「ブレス、吐いちゃったし」

確かに。俺も更地にしたしなぁ。明後日の狩りには連れてけ無いが、何れ機会を設けて逢いに行く事になった。


 で、翌々日。冒険者ギルドの前には人集りが出来ている。魔法とか、ドーンってしてキレイにしたいが逆に汚くなりそうなのでそっと門前に移動して《威圧》を放つ。おお、来た来た。ゆっくり飛んで街を出た。

「カケル待てやー!」

「人集りなんて作るからだ。後、今の俺はライデンだ」

「くそっ、気配が変わって気付くのが遅れちまったぜ…」

毒づくジョンが合流し、少し高い所で飛んで行く。ジョンもシュンシュン跳んで付いて来た。

「何処で狩るんだ?」

「そうだな、じゃあそろそろ探すか」

「宛も無く飛んでたのか」

「追っ手を撒いてたんだ」

「あ?…うわ、マジかよ。付いて来ても死ぬだけだろうが…」

「肩に捕まれ。早く飛ぶから」

「お、おう」

ガッチリと肩を組み、二人で浮いてトカゲを探す。北の山を越えた辺りに居るようだ。

「北に見える山を越えた辺りに居るんだが、あっちに人里とかはあるか?」

移動しながらジョンに聞いてみる。大暴れしてる下で人が逃げ惑ってたりしたら嫌だからな。

「お、居たのか。街ならあるぞ?シューンシューンズデーゲンって街だ」

「長い名前だなぁ」

「ハーク様やアルア様の通う学園がある、学園を中心にした街だ」

「学園都市、みたいな?」

「上手い名前を付けたな。そんな感じだぜ。今行けばハーク様達にも会えるだろうな」

「会わずに済めば良いが…」

「何だ、会いたくないのか」

「だってなあ、姿も変わってるし、混乱させたくないんだよ」

こっちのカケルの方が良い!とか言われたら立ち直れないもん…。
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