上 下
685 / 1,519

未経験

しおりを挟む


「いらっしゃいませカケル様、お待ち申して居りました」

鉄扉を開けてくれたアルネスに聞いてみる。

「カロが休んでるそうだな」

「はい。十日前からギルドをお休みされております。ささ、どうぞ中へ」

歩きながら話を聞くと、やはり産休であるそうだ。イゼッタ達もそろそろだと言うと、其方を優先すべきだと返されたが、産む場所等を相談したい旨を伝えると、それなら当家で、と家主の許可も得ず決めてしまった。

「姫様が当家で!?ならば私は外で構いません」

「馬鹿め落ち着け」

話を聞いて、慌てて起き出そうとするカロを押さえ付けて撫で回す。

「はにゅ~…」

良し。一緒に横になり、おっぱい揉んだら落ち着いた。張りが出てるな、モミモミ…。

「カロの所では助産師はどうするんだ?」

「はい。家政婦組合からお呼びする手筈となっております。明後日からは泊まり込みで付いてもらう予定です」

「そこにイゼッタ達三人が来ても大丈夫だろうか?」

「それは問題無いかと。同時に産まれると大変でしょうが、その分人を集めても構いませんから」

「ではカロ邸に厄介になるよ」

「お部屋に関しては、主寝室にお嬢様。二つの客室を姫様達三方の寝所としましょう」

「アルネス、それは畏れ多い」

「普段使いなされてるお嬢様のベッドに姫様を寝かせる方が問題かと…」

「俺、出産未経験なんだが、ベッドとか汚れたりするのか?」

「私も未経験です。ですが、シーツや敷物は取り替えると聞いております」

「なら、雑木マットの方が取り替えが利いて良いかも知れんな」

「姫様達が使い慣れているのでしたら、それも良いかも知れませんね」

名残惜しいが揉む手を離し、客室のベッドを替えに行く。貴族の家らしい立派なベッドだが、汚したら悪いだろうしな。《収納》して、マットを厚く敷いて行く。使わないであろう他の家財道具も《収納》して、三床分のスペースを確保した。

「客室が余りましたね」

「助産師を増やすなら休憩室も作らなきゃな」

「成程。でしたら其方の部屋にもこのマットをお願い出来ますでしょうか?」

そんな訳でもう一つの客室にもマットを敷いて行く。家財道具を《収納》し、雑魚寝なら二十人は寝られるスペースとなった。

 一息着いて、カロの元に戻ろうとしていると、エージャが来てる反応があった。謎感知ではなく、ちゃんとした《感知》だ。

「エージャが来てるみたいだ。外に出よう」

「え?はい」

「カケル様!カケル様ぁ!」

何時ものおかしなテンションじゃない感じで俺を呼ぶエージャ。何かあったのだろうか。

「どうした?」

「先約があると言うので断られました。斬って捨ててもよろしいでしょうか?」

「止めんか。先約の中身は俺の子だ」

「私の中にもお願いします!」

「その内な。アルネス、増援の件を含めて話を通して貰えるか?」

「畏まりました。お嬢様にお伝えしてから向かいたいと思います」

明日も来ると告げ、俺とエージャは寝具店に戻る。

「あばぁ~」

「おにーたんでちよ~」

義弟と戯れる時間くらい、俺も欲しいのだった。義弟の名前はメッツ君となった。父の名の名残は消えてしまったな。きっと美男子になるだろう。


 エージャにカケリウムを補充して家に帰り、イゼッタ達にカロ邸で厄介になる事を伝えた。明日から行くと言う事で、服やら色々準備してる。やってるのは主にメイドだが。
手伝いは要らないと言うのでもう一つの問題解決へ向かう。

「ええ、私達もそろそろかと…」

ラビアン達もそろそろらしい。腹ボテのニト母と、同じく腹ボテのニトがアイツを舐りながら教えてくれた。唯、ラビアン達は島の中で産めると言う。今まで自分達だけで産めて居たと言うので信じるが、道具だけでも揃えてやる事にした。
赤ちゃん大合唱が始まるのか…。防音施設、作るべきかな?

「赤ちゃんの部屋は作った方が良いか?」

「んっ、んちゅ…。でしたら、男の子部屋で充分だと思うのです」

「なら男の子部屋に防音を付与してもらおうか」

「そんなのも要らないのですよ。ラビアンは泣かないので…はむっ」

「ぷは。野獣を呼んでしまいますからね…れろ…」

此方の問題は何とかなりそうだ。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

【最強の凸凹魔法士バディ】裏組織魔法士ギルドの渡り鴉~絶対領域と瞬擊の剣姫~

夕姫
ファンタジー
『魔女』それは、この世界に災厄をもたらす存在。ある物語では悪の権化として語られ、また別の物語では人類の守護者として語られることもある。  そしてこの世界における魔女は、前者の方だった。その力は強大で、その昔、国一つを一夜にして滅ぼしたと言われるほどだった。  時は流れ、世界に厄災をもたらすために『魔女』と呼ばれる存在はまた暗躍することになる……。 世に蔓延る悪魔を断罪する特殊悪魔討伐対策組織『レイブン』。そこに在籍する主人公、アデル=バーライト。普段は普通に王立魔法学院に通う学生だ。 そして同じ学院に通う、仕事の相棒の公爵家のお嬢様、あまり感情を表に出さない、淡々としている性格のアリスティア=セブンシーズ。アデルは唯一の身寄りである愛しの妹を養うため、日夜、悪魔を狩っている。 「中に入る前に言っておきます。あなたは守り専門です。前に出ないでください」 「いちいち言わなくてもわかってるよ」 「あとアデル=バーライト。変装か何か知りませんが、その伊達メガネ、ダサいですよ?」 「うるせぇ!余計なお世話だよ!」 そんなやり取りは日常茶飯事。それでもこの二人は若き『レイブン』の魔法士としての実力があったのだ。 悪魔憑きを産み出す魔女『ドール』と呼ばれる人物を狩るため、最強の「剣」と「盾」の魔法士バディが今日も王都を駆け巡る。

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

処理中です...