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調整役

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 ネーヴェに雑木の塊をあげて暫くして、包丁のバリを取り、形が出来た頃、家具を作り終えたネーヴェが二階から飛んで来た。

「でーきたー」

「お疲れ様。この円盤をツルツルにしてくれるか?」

「んー、ほい」

なんと簡単にこなしてしまうものか。一瞬でサラサラしていた煉瓦がツルツルに変わった。研ぎ出すと黒いのが出るので研げているのが確認出来た。面研ぎは時間が掛かるし、包丁の増産をやってしまおう。サラサラ円盤をもう一台作り、今度は沢山の包丁を削り始める。

「カケル様、そりゃあなんだい?」

暇を持て余した主婦や移住者が見物に来た。畑仕事が無い午後の主婦は暇なのだ。作っているのが包丁と知って目の色が変わる。これは家庭用にも作らにゃならんパターンか?切り出しただけの刃の無い鉄板を見たり持ったりして使い心地をシミュレートしてるよ。

「ナイフに比べると身がだいぶ薄いねえ。これで野菜を切るのかい?」

「そうだよ。使い心地は実際に使って見ないとね。好みもあるだろうし」

「肉は切れるんかい?」

「骨は無理だな。関節を切るのも鉈くらい厚みが無いと厳しいだろうね。精肉を切るのは出来ると思うよ」

肉も切れると言う事を聞いて物欲に火の付いた女達の目が刺さる。先ずは仕事用。それが終わったら順次進呈する事で落ち着いてもらった。敵に回すと生活出来んので此処は忖度するしか無い。
試作の一本がテカテカに研ぎ上がったので、早速野菜を切る事にした。折角作った加工場だが、全員は入り切れないのでその場でテーブルを拵えて、皆が見えるようにした。実演販売かよ。
リームが取り出した数種類の野菜を切る。包丁の性能もそうだが、何故か俺が料理出来る事に驚かれた。解せぬ。下手な主婦より皮剥きが上手いとか、切り方が丁寧とか、真面目な顔が意外と可愛いとか。意外とって何だよ…。
切った野菜は折角なので干し棚で乾かす。

「皮剥きした残りはどうすんだい?」

「外の畑に鋤き込んでやれば良いよ。次採れる野菜の肥料になるだろ」

「新しい人達の仕事になるんだろ?あたし等もさせてくれないかねぇ?」

「飯作りと掃除と洗濯だけじゃ暇を持て余しちまうよ」

充分働いてるだろそれ。報酬が現物支給になっちゃうのを説明し、それでも良ければ…と言う事で調整してもらう事になった。調整役は元肉屋の女将の未亡人、マルシアさん。調整役はそれだけで一つの仕事になりそうなんだが、本人がどちらもやりたいと言うならそれ以上の口は挟まない。調整が終わったら一度報告に来ると言い、その場は解散となった。


 午後をだいぶ回り、一回目の包丁の増産が終えたので岩壁の居住区を整備に行く。二回目を仕込みたかったが、動力は俺のスキルだし、俺が近くに居ないと不安なので休止したよ。

「中を壁で仕切ると言っていたな?」

「ああ。トイレ剥き出しじゃ恥ずかしいもんな」

西の二階に行くと、既に数人が座ったり寝転がって休んでた。慌てて出て行こうとする女達を制し、序にレイアウトのリクエストを聞きながら仕切りを立てて、ベッドやトイレ、照明を設置し、最後に窓とドアで部屋と外界を遮断した。六人部屋はこれを雛形にしよう。

「私等は今日から此処に住むよ」「ありがとうね、カケル様」「したくなったら、…良いからね?」

有り難く通わせてもらおう。ネーヴェとバジャイのガードが強いので、他の部屋も整備して行った。作り方を覚えたネーヴェも参戦し、新規の分を含め、二階と三階で十六部屋を整備して飯の時間になった。
 飯を食いながら移住者の女達に話をすると、皆が今日から住むと言う。家を留守に出来るので正直助かるぜ。その後、調整役のマルシアさんから明日から仕事を始められると報告を受けた。お礼代わりに光の棒を差し上げると、何処に置いたら良いか分からないので家に来てくれと言う。
魔道具のアフターケアは入念に行わなければならない。


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