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業務用

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 部屋の隅に井戸を掘る。とは言えこんな海沿いに掘っても出るのは塩を含む水だ。飲めないが、それで良い。
真下に三ハーン程、直径二ハーンの穴を掘る。海抜が低いだけあって既にじんわり水が浮いてるな。そこから海に向かって斜めに掘ると、ドバドバ水が上がって来た。穴の周囲を薄くスカスカな素焼きの陶器みたいな煉瓦で覆い、一旦溜まりかけてる水を《洗浄》する。水が消え、キレイな水が上がって来る。

「ぺろっ、これはしょっぱい…」

井戸に一ハーン程溜まった水は、ちゃんと塩水だった。これで海に採水しに行かなくて済むし、ゴミの混入が抑えられるようになったぞ。それにミズゲルも来ない。
雑木で釣瓶と桶、篦や柄杓なんかを作り、井戸の隣には大型の火の鉄板を並べるスペースとする。
 女が働くなら、鍋は大きくしない方が良いよな。深い鍋は重くなり過ぎるから、四十ドン程の浅い鍋を作る事にした。高さが無い分、輪っぱは一ハーンくらいあっても良いだろう。
取手を付けた大型の半寸胴を五つ並べ、その下に火の鉄板を作って並べる。魔石を九個付けた正に業務用だ。

「ネーヴェ、試しに塩を作ってみてくれ」

「うぇ~い」

釣瓶から桶に水を注ぎ、鍋に注いで火に掛けると、みるみる内にシュワシュワお湯が湧いて行く。流石業務用。

「この火力は島にも欲しいな」

「ん。カケル~」

「はいはい」

次に作るのは竈だ。井戸から離れた側の壁面に、耐火煉瓦を厚く盛り、四十ドンΦ×二十ドンの鍋を十個置けるようにした。鍋は耐火煉瓦で作り、火の鉄板は業務仕様だ。篦やお玉も作っとく。
作ったは良いが保管場所が無いな。薄い煉瓦で蓋付きの箱を作る。

「ネーヴェ、ちょっと良いかな?」

「ん。なに?」

「この箱を、冷やす機能のあるマジックボックスにしたいのだが、どうしたら良いかな?」

「時間を進めて冷ます…とか」

「成程。塩ならそれもありか。ちょっと作ってくれないか?」

「あーい」

ネーヴェと場所を代わり、塩水を煮る鍋を見る。今はジュワジュワ沸騰してるが、カラカラになるまで煮れば九~十ナリ取れるはず。

「できたー」

ネーヴェの付与が終わったようだ。一ピルで一日だって。箱の中で鍋に火をかければ…空焼きで穴開くな、ダメダメ。
塩が析出するまで三人で交代しながら混ぜていると、暇を持て余した女達がやって来た。

「カケル様、それが塩作りなのかい?」

「ああ。今試しに作ってるから、自由に見てみると良いぞ。但し鍋は熱々だから触らないようにな」

女達に海水塩の作り方を教えてやると殆どの者が直ぐに理解した。やってる事は料理と同じだからだろうな。それに火の鉄板への食い付きが強い。流石業務用。
製塩を見せながら質問に答えたり足りない物を作ったりしている内に、鍋の中の水分が飛んで塩が溜まりだした。塩を含んだ熱湯を柄杓で掬い、バケツに乗せた濾し器に通す。濾し器に残った結晶を他のバケツに流し込み、一頻り溜まったら耐火煉瓦の鍋に移して火に掛けた。サラッサラに乾燥するまで焼いたらお玉で掬って箱に入れる。蓋をして一ピルで冷めた焼き塩が完成した。皿に乗せて見せてやると、思い思いに摘んで手に取ったり、指で擦ったり、舐めたりしてた。

「カケル様、ここには何人働かせてくれるつもりなんだい?」

「んー…。朝から四オコン、午後から四オコンの二交代で十人ずつ。全部で二十人くらいだな」

「それだと五十人は余っちまうね」「体が鈍っちまうよ」

「まだ作って無いけど、干し野菜の工場も作るから、そこで四十人くらい働いてもらおうか」

「そっちは結構多いんだね」

「切る人と干す人、野菜の種類もあるし、それに箱詰めもあるからな」

「残りの十人はどうすんだい?」

「七日で二日、交代で休みにするから全員働けるよ。製塩は休みの日は全員休みだ」

「しっかり考えてんだね」

「給金は売れてないから現物支給になっちゃうんだけどな。この街、流通する程金無いから」

インフレ整備は大変だぜ…。
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