537 / 1,519
金属バット
しおりを挟む素晴らしい経験を得て目覚めた朝。朝食を食べ終えお茶を飲み、作業を開始する。昨日水に漬けていた種達は、しっかりふっくら含水したようだ。水を替えて煮る準備をしよう。
「カケル、何それ?」
「鍋を使う程の量じゃないからな。このまま煮られるようにしたんだ」
作ったのは、お椀が乗る程度の小さな鉄板に、リアに作ってもらった属性魔石を埋め込んだ、携帯用火の鉄板だ。属性魔石も一粒しか使ってない。鉄板の下には同じくらいの大きさで耐火煉瓦を敷いて、テーブルの上でも煮炊きできるぜ。テーブルに並べた十一個のお椀にそれぞれセットし火に掛けた。蓋も作って乗せとこう。
暫くするとくつくつと湯が沸いて、蓋の隙間から蒸気が漏れる。火力を調節したらシャリーに火の番をさせて外に出る。カラクレナイ用入口の前ではリームが収穫したアマグキ三種が太くて長くて立派な茎を晒している…、基、置いてある。
「カケル様のより長い…」
「太さはカケル様の勝ち」
「味はどうなのかしら…」
アマグキ突っ込んだろか。兎達にチラッチラ見守られ、三種の草茎を検める。葉が長いのがナガバアマグキで、葉が細いのがホソバアマグキ。残ったのが普通のアマグキだと思う。名前のまんまだな。茎の太さはどれも変わらず、葉を取ったら見分けが付かないな。
普通のアマグキの葉を取っ払って《洗浄》し、《散開》した物を手で搾る。入れ物用意してなかったのを察知してテイカが鍋を持って来てくれた。ありがたし。搾るのは誰でも出来るので皆にも手伝ってもらおう。イゼッタとテイカが普通のアマグキ、フラノノにはホソバアマグキを任せ、サミイとリアはナガバアマグキを搾りだす。俺、リアの乳を搾る。乳はまだ出ない…ってやる事あるから!現実逃避良くない!
極々薄い雑木紙を作り、鉄板を曲げて作った漏斗に組み合わせて水を注ぐ。雑木紙は元々木なので穴は空いてるだろうが、練ってあるので水を通すか不安だったのだ。だが雑木タオルは水を吸うし、不安は杞憂に済んで良かった。
漏斗のセットと煉瓦の入れ物を三つ用意し、搾った汁をそれぞれ濾して行く。搾りカスが取り除かれた薄緑の泥水は、初見では口にしたくない。兎達が鉄板を持って来てくれたのでテーブルに耐火煉瓦を置いて火に掛けよう。
ぐつぐつぐつぐつぐつぐつ…
茶色くとろみのある液体になった。これを冷やし固めれば黒糖になると思われる。糖が含まれてればな。鉄板でバットを作っておこう…。金属バット…良い響きだ。
「主様。この匂いは何だ?」
アマグキを栽培してくれたリームが野菜を担いでやって来た。お仕事お疲れ様です。
「アマグキを搾った汁を煮てるんだ」
「人の子や兎達は甘い味に蕩けているようだが、我は好んで食う程では無いかな」
「龍は塩と脂派だからな」
「うむ。焼けた脂の旨味を知ったら生では物足りん」
「カケル様、種の水が無くなりそうです。足しても良いですかー?」
「良いぞ。昼飯の時間までその調子で頼む」
種を煮るシャリーからの報連相を聞き、種の様子を見に行く。煮種を一粒ずつ浮かせてフーフーし、指で潰してみる。まだ芯があるな。口にするとプリっとしたりサラサラしたりと食感に違いがある。ヒラバ類はサラサラ系、アマグキ類はプリプリ系、フサナリはモチモチ、ムチムチ、サヤノクサはサラサラ、プリプリ、サラサラだった。ヒラバ類とサヤノクサ、マルサヤノクサは使えそうだ。引き続き火の番よろしく。
厨房から持ち出して来たお玉で茶色いトロトロを混ぜる女達の元に戻る。水分もだいぶ抜けて、良い頃合だな。バットに流して冷えるのを待つ。
「皆お疲れ様。後は冷やすだけだから自由にしてくれ」
「食べられるの?それ…」
「見た目はよろしくありませんが、カケル様の事ですからきっと大丈夫なのでしょう」
まあ、見た目は悪いよな。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる