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酵素
しおりを挟む昼飯が遅くなったので夕飯は少な目にしようかな、なんて考えながら部屋に戻って昼寝する。昨夜は寝なかったから眠いのだ。
爆睡かまして気付いたら夕方。日がだいぶ傾いてるな。多分二オコンか三オコン程は寝ただろうか。そして何時の間にか女児達が俺にくっ付いて寝息を立てている。勝手に入ったのか?それとも用でもあったのだろうか。とても可愛らしい。
「カーケールさぁん」
「ん…、リュネが入れたのか」
「うふ、お楽しみだったのですね」
「だいぶ頑張ったよ」
夕飯も近いだろうし、回復を掛けて自分を奮い立たせる。
「イゼッタさんが甘い汁を作ってくれましたよ。この子達はカケルさんに教えてあげようとしたんです」
「愛い奴等め」
甘い汁とは糖の実の事だろう。卵もミルクも手に入れ辛いこの世界では、甘味を作るのも一苦労だな。割り箸に絡め取ってねりねり色を変えて食うくらいしか今の所お菓子と呼べる物は作れない…。
「あっ…」
「どうされました?」
「否、何でも無い。甘いお菓子を思い出しただけだよ」
「あま…カケウひゃまぁ。甘いのれきたぁ」
「んん…、おかしってなんですか?」
俺の声で起きてしまった天使達。残念。夕飯も近いので三人抱えて食堂へ向かった。リュネが抱っこして欲しそうな視線で此方を見ているが、大人なんだから我慢なさい。
「カケルの体から女の子が生えてる」
「抱っこしてるだけだ」
食堂に居たイゼッタが、甘いのが煮えた事を知らせてくれた。寸胴鍋一杯に入った液体はまだ湯気を放ちサラサラしてるようだ。
「明日にはネトネトになる」
そう言えば初めて食った時も翌朝になってネトネトしてたよな。
「実を取り出して更に煮詰めると結晶が出来ます」
外仕事から戻ったフラーラとノーノが、火の落ちた鍋を見てそんな事を言う。
「知らなかった」
「冷めると酵素が出る訳か」
「こーそ?」
「砂糖を水飴に変える魔素みたいなもんだ」
「へー」「へぇ」
三へぇ。折角なので砂糖にする事となり、果実を浮かせて取り出した。煮上がってぷるんぷるんになった実も美味しく頂けるので別の容器に移す。買って来た鍋が役に立ったよ。ヒタヒタになるくらいに糖蜜を入れて、こっちは水飴にしよう。
果実を取り除いた寸胴鍋に、再び火が入る。明日までコトコトしていると、水分が抜けて結晶が出て来るのだと。時折鍋肌に水を掛け、鍋肌に付いた糖を落としてやるのが良いらしい。
「砂糖はやはり手間が掛かるな」
「お高いですから。普通の魔石で作るなら尚の事ですな」
「カケル様ぁ、まだ食べられないの?」
寂しそうな女児が俺に抱き着いて来る。
「明日からのおやつにしような?材料があればだが、お菓子も作ってやれるぞ」
「待ってる!」「カケルしゃまだいしゅき!」
「おかしって何なんですか!?」
なんなんだろうね?
さて、飯が出来るまで材料を探しに行こうか。名残惜しいが女児達を降ろし、料理の支度に勤しむ兎達に材料の有無を聞いてみた。が、答えは芳しくなかった。肉と葉物根物野菜を主食としてたラビアンに、それを食べる習慣は無かったようだ。
街の子サミイとテイカはどうだろう?テイカは酒場飯が殆どで兎達と変わらず。サミイからは何種類か種苗店にあるとの情報を得た。が、島では作ってないと言う。
フラーラとノーノ曰く、ラビアンだけでなく人も食べない家畜の餌、だそうだ。しかし農耕してた小さい種族のシャリーは、煮たり焼いたりして食べていたとの有力情報を得た。
そんな訳で、明日はシャリーを連れて街に買い物に行く事に決めた。夕飯を食べながら作り方を必死に思い出す俺であった。
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