485 / 1,519
マタニティトーク
しおりを挟む人化したカラクレナイとママ上殿の面通しの真っ只中だが、俺とサミイはバックヤードへ搬入を行う。向かう途中、店番をしてる親父殿に挨拶して、何時の間にか付いて来たエージャにも確認させて搬入を終えた。
「必ずや完売せしめて見せましょう」
「売れ残る位が丁度良い。かと言って売り渋るなよ?」
「肝に銘じます」
「在庫は抱えたくないですけど…」
「新規の客は毎年ポツポツ増えるもんだ。その時の為に少しだけ残しとかないとな。作るのも持って来るのも忘れがちになるし」
「忘れないように催促しますね!」
「忘れた頃に頼むよ」
「ご主人、おいでか?」
「おいでだよ」
バックヤードで一息着いて居るとフラーラがやって来た。
「我等買い物に向かう故暫く離れます。姫様を頼みます」
「わかった。行ってらっしゃい」
「あ、わたしとカララさまも一緒に行っても良いですか?材料を買う所からお料理が始まるんです」
「我等は構わないが、親御様にも一言断るべきだろう」
「ですね!聞いてみます!」
一足先にパタパタと向かって行くのを追って、客間に向かう。サミイの交渉の結果、メイド二人とサミイが離れない事を条件に、カラクレナイの動向が許可された。ママ上殿はカラクレナイを離したく無さそうだったが、料理を教わりたいと聞いて奮起している。…離せよ。
メイド達が家を出て、残るは妊婦と経産婦、そして従業員。従業員は仕事しなくて良いのか?どうやらママ上殿の世話をメインでしてるので今は此処に居て良いらしい。ママ上殿が許しているのだから良いのだろうな。マタニティトークに花が咲いているが、俺はその輪に入れない…。従業員は自分と、多分俺の子を産んでる時を妄想してえへらえへらして居られる。俺も買い物に出れば良かった…。
「「ただいまー」なの」
耐え忍び、数オコンして、漸く終わりが見えた。サミイ達が帰って来たのだ。客間から逃げるように玄関へ出向き、二人と熱い抱擁を交わす。
「お~が~え~り~」
「はいはいよしよし」
「カケル、だいすき」
「これからソーサー作るので、もうちょっと待ってて下さいね!」
カラクレナイと作る初めての料理はソーサーらしい。材料と調理法次第でいくらでも味の変わる高難度料理だ。しがみ付く俺をペリっと剥がし、二人仲良くキッチンに行ってしまった…。
「マタニティトークと言う暗号会話を聞き続ける苦行に耐えられなかった」
「成程。買って来た荷物を収納して、時間を潰して下さい」
荷車の横に積まれた食料品に衣類、雑貨等を小箱に収納して…、一瞬で終わった。荷車の中で横になろう…。
「カケルさぁん、カララちゃんがお料理してる姿を見ないのですか?」
目を閉じて聞こえるのはリュネの声。今頃キッチンではキャッキャウフフと粉を捏ねくり回している事だろう。見たいけど、何故だか瞼が開かなくて、体も起こせる気がしなかった。
「眠過ぎてもうダメ」
片腕に柔らかい圧が掛かり、静かな吐息が頬に当たる。ぽんぽんとお腹を叩く優しさに、意識を手放す他は無かった…。
そして目覚めたら夕方。昼飯も食わずに寝剥がしてしまったらしい。横ではリュネが優しげな瞳で見守ってくれていた。
「カラクレナイのソーサー、食べそびれちゃったな」
「私には至福の時でしたよ。今度は食べそびれないようにしましょう」
裏庭には既にテーブルセットが並んでいて、メイド達が皿等運んでる。眠気の残る体に回復を掛けて手伝いに行こう。
「あ、旦那さま、今起きたんですね」
「昼飯食いそびれてすまん」
「カケルー」
「カラクレナイもごめんな」
昼に作ったソーサーは俺とリュネの分は残してくれておいたそうで、ママ上殿のソーサーの横に、ナンみたいなのが数枚添えてあった。基本的にソーサーはピザ生地のように丸い形をしているが、形は味に影響しない。だから全然全く問題無いのだ。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?
アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。
どんなスキルかというと…?
本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。
パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。
だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。
テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。
勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。
そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。
ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。
テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を…
8月5日0:30…
HOTランキング3位に浮上しました。
8月5日5:00…
HOTランキング2位になりました!
8月5日13:00…
HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ )
皆様の応援のおかげです(つД`)ノ
無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす
鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》
社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。
このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる