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ネーミングセンス
しおりを挟む息を吐くように人を殺せる存在であっても、俺に逃げる選択肢は無かった。
「こんばんは、俺はカケル。君の名は?」
「な…、わかんない」
「俺は近くの街から来たんだ。君は何処から来たの?」
「どこ…、わかんない」
困ってしまって泣いてしまいたいのをグッと堪える。これ精神攻撃だ!もしくはこの子の感情が流れてくるのか。
「お腹空いてないか?ご飯食べさせてやるよ」
「おなか、すいた…かも?」
うひ!魔力が抜かれる!!
「魔力を食べるのか」
「美味しい」
「食べる前は、食べて良いか聞いてから食べような?」
「うん。食べて良い?」
「もうそんなに残ってないから魔石で我慢してね。お肉焼くけど食べるか?」
「…食べてみる」
ふぅ、魔力欠乏で死ぬのは免れたぜ…。トカゲの魔石をちゅぱってる隙に火を熾して肉を焼かないと俺が食われてしまいかねない。雑木の棒と板を高速で擦り合わせて種火を作り、煉瓦の竈で火を熾す。持ってて良かったトカゲ肉を薄切りにして塩とスパイスを振り、遠火でじっくり浮かせ焼きにしてやると、肉の良い匂いが漂いだした。
「焼けてるにおい」
「俺達は肉を焼かないと食べられないんだ。取り敢えずこれで食べてみてくれ」
焼けた肉を雑木の板の上で一口大に切ってやり、串を刺して提供した。微塵の警戒も無く串に刺さった肉を頬張り、はふはふしてる。何だこの可愛い生き物は!?
「はふい、おいひー」
「魔力とどっちが良い?」
「ほっぴ」
「他にも食べる物はあるけど、一緒に来る?」
「んぐっ。カケルご飯くれる。行く。ハムっ」
一緒に行くに当たり、やっちゃダメな事を念入りに教え込む。理解出来たらお肉をあ~ん。よしよしなでなで。
なでなでされる事を喜ばしいと思いだした彼女はとても良い子になった。透明感のある角に朝日が反射して眩しい。
「街まで行くけど大人しくしてられるか?」
「頭撫でてて」
「撫でててやるから離れるなよ?」
「うん!」
抱き着かれたまま街まで飛んで帰る。途中、《集結》し切れなかったモンスターが大移動していたが、飛んでるのだけ落として先に進んだ。前線は更に街へ近付き、街の壁が見える所まで来ていた。壁の上からもこの大群が見えている事だろうな。俺達はそのまま上空を飛んで街に入る。この子絶対面倒事になるもん。そんな訳で人気の失せた大通りに降り立ち、ギルドへと向かった。
「……で、その幼女を拾って来た訳か」
「ちょっかい掛けるなよ?辺り一帯の人が死ぬぞ?」
脱糞地獄から生還してたギルマスに、結果報告と彼女の紹介をする。話題の中心である彼女は出されたお茶をちみちみ啜ってる。仕草だけなら可愛い生き物だ。
「カケルだったな。そいつをどうするつもりか」
「愚問だな。ちゃんと世話するに決まってるだろ?俺には此奴を殺せないし、お前等なら近付く事すら出来まいよ」
「お前のようなDランク風情にどうこう出来る存在か?」
ギルマスの後ろに立つ白い鎧の男が吠える。
「俺はAランクだ。お前なんぞより俺の方が其奴を御する実力がある。俺が其奴を飼ってやる」
「お前…」
言い終わる前に死んじゃった。糸の切れた操り人形の如く、音を立てて腰砕けに落ちた。
「勝手に食べちゃダメじゃないか。食べる時は?」
「食べて良いか、聞く…」
「そうだな。ちゃんと守ろうな」
「ごめんなさい」
ちゃんと謝れるこの子は良い子だ。
「で、まだ俺Dランクなの?」「なの?」
「な、今処理する!」
傍に来た男にギルド証を渡し、処理してもらう。ついでにこの子のギルド証も作ってもらおう。
「えっと、名前は無いそうですが…、どうされますか?」
「お前、名前はどうする?何時までもお前じゃ嫌だろう?」
「カケル、名前ちょうだい?」
「そうだな。お前に似合う美しい名前をあげよう」
俺のネーミングセンスが火を噴くぜ!
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