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生焼けの肉串
しおりを挟むスープだけじゃ寂しいので薪を使う竈も作った。今串焼きとツイストソーサー焼いてる所。煙がしっかり排出されてて自分で自分を褒めてあげたい。
「なあお前さん、お前さんちには何時頃着くんだい?」
「そんなに速度を出てないけど…、寝て起きたら着くんじゃないかな」
「来る時はどうしてたんだい?」
「鎧着て、寝ながら飛んでたよ。で、起きたら大陸入ってた」
「よくドラ…トカゲに食べられなかったもんだよ」
「そんなにホイホイ飛んでたら、一生に一度見ない、なんて言われないさ」
「じゃあ、このガリガリしてる音は何なんだろうね?」
肉を焼き始めて暫くして、外からガリガリ聞こえて来てた。無賃乗車も止めて欲しい。
「運が悪いんだろうねー。トカゲ程度の歯じゃ、歯の方が削れちまうように作ったんだが…」
バキバキッ!
「ぎゃっ!?」
あーあ、壊れちゃったよ。壊した方はワーリンの奇声にちょっと驚いたようで固まってる。今の「ぎゃっ!?」は龍語では「何!?」に聞こえなくもない。
砕けた壁の向こうには真っ黒い目の辺りしか見えないがだいぶデカいぞ。このUFOよりデカいんじゃないか?
「ね、ねえ…、お前さん。これ、トカゲと全然違うよね…?」
「お前が此奴をトカゲ呼ばわりしなくてほっとしてるよ。残念な事に此奴は真のドラゴンだな」
怒って中にブレスでも吐かれたらお肉が灰になっちまう。
「んっんん…。ギュアーギャラギュグエー」
「は?」「グァ?」
同時通訳ありがとう。
「腹減ってるなら中で食えって言ったんだ」
「ぐえーしかわかんないけど、どうやって入れんのさ?」
「龍は人化出来るんだよ」
「へ、へぇー。トカゲの肉だけど…、良かったら」
生焼けの肉串を差し出すのはどうなんだろう?
「人のクセに何とも物怖じせんヤツよ」
パーッと光って現れたのは真っ黒でゴツゴツテラテラした鎧を纏った赤いショートヘアの女だった。羊みたいなくるっと捻れた角がチャームポイントだなきっと。生焼けの肉串を奪い取ると、その場にドカッと胡座をかいて齧り付いた。ワーリンよ、其奴は多分もっと食うからどんどん焼け。
「ん、これは羽しか無いトカゲの肉だな?」
「そうだな。人は生では食わんから焼いているが、味はどうだ?」
「味など気にした事も無い。が、塩の味がする」
ハグハグもりもり食べだしたのでスープも出してやる。ちゃんとスプーンで食べててお利口さんだな。
「草を加工して食うのも久しぶりだな。塩の味と骨の味がするなこれは」
「骨と塩と草を煮込んであるんだ」
「ふう。煮込む、か。所で人共よ、こんな所を彷徨いてると龍に食われるぞ?」
「家に帰る途中だったんだ。可愛い嫁と子が待ってるんでな」
「子供いたの?」
「俺のじゃないけど可愛いから問題無い」
「ならばそこまでは見守ってやる。食事の対価だ」
「それはどうも。所で龍は何の用でこんな海の上に居るんだ?」
「人の知る事では無いな」
「そうか。俺達も飯にしよう。にくにくー」
「よくこんな圧力の中で飯が食えるね…。はい、熱いやつ」
俺は慣れてるから気にもならんが、平気でいられるワーリンもなかなか大したものだぞ?
「我にも寄越せ」
「はい、生焼けのヤツ」
良いのか?生焼けで。文句無く食べているので問題無いのだろう。その後は無言で食べ続け、太腿二本を食べ尽くし、大股開きで寝てしまった。どこ行った野生。
「…寝ちゃったね」
「龍は自由なのだよ」
「真のドラゴンが居るの、本当だったんだね」
「此奴とは初めて会ったけどな」
「て事はまだ居るんだ…」
だらし無く眠る龍に布団を掛けて、俺達二人は風呂に入って寝た…かった。
「糞は何処ですれば良い。言わねばこの場でひり出すぞ?」
意思の疎通が出来るおっきな赤ちゃんか!
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