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寝る子よ育て
しおりを挟むしっかり寝て、下の階からガチャガチャし出す前に起きたら早目の朝食を摂ってギルドに向かう。朝一で、と言う指示なのだが、時計なんて貴族しか使わない。冒険者を含む平民は時間を告げる鐘の音で時を知る。俺はどの鐘が何時か判らないので起きた時間が朝である。ギルド前に着いて、まだゾーイ車が来て無い事にほっとした。
「早過ぎちまったね」
「早い分には問題無いわ」
「否、もしかしたら何処かにメイドが隠れてて、俺達が此処に来たり、宿から出たのを確認してから屋敷を出てるのかも知れんぞ?」
「ふふふ、まさか」
「あ、来た」
ぽっくりぽっくりゾーイ車が通る。護衛の単騎が四頭で囲み、安全運転でこっち来た。
「総員停止ーー!」
煩い。
「カケルー!」
可愛い。
馭者が来るより早く飛び出しぴょんぴょん飛んで来た。判る人には判る。跳ねる振りして飛んでいる。胸の高さに飛び込んで来たのでお人形さんよろしく腕に座らせてやった。
「おはようハーク様。今日から数日、どうぞ宜しく」
「坊っちゃま」
「う、こちらこそ宜しく頼むぞカケルどの」
ブルランさんに注意され、仕事モードのセリフを吐くハークきゅん。同行者との面通しを済ませたらへばり付いて離れない坊っちゃまを車に押し込み出発だ。因みに三台のゾーイ車は先頭に宿営機材や食料、真ん中にハークとメイド達、後尾には衣類等ハークの荷物が入り、俺達の席は無い。ハークはこっちこっち言うけど橇風呂を出して乗り込んだ。俺がそっちに乗るとブルランさんが馭者席に追いやられてしまうし、ワーリン達が歩きになっちゃうからな。
「それは三号車に牽引させるのか?」
後詰の護衛に聞かれるが、蹴って進むと行ってドリフトターンしてやると感心していた。
「お尻が振れる感じが何か気持ち悪い。尻尾引っ張られてるみたい」
「尻尾無いけど同意するわ」
「酔わないように安全運転で行こうな」
最後尾に付けるとメイドが寄って来た。
「カケル様、坊っちゃまのご指示で客車の後ろに付くように、と」
窓開けて手を振るハークきゅん可愛い。クライアントの注文には答えられるだけ答えねばならない。二号車の後ろに着くとどうやって動くのとか構造等聞いて来る。
「出発ーー!」
煩い。が、助かった。正門を出たゾーイ車が常歩から速歩に変わる。移動中はゾーイの体力を考えてこの速さらしい。浴槽の中の二人は早々に雑木紙を巻いて丸太になった。
「僕もそれに乗ってみたい!良いでしょ?」
「宿営地に着いたらで良いなら乗せてやるよ。玩具と同じで風を使って走らせる事も出来るが、魔力は温存した方が良いな」
「分かった。それまで寝る」
寝る子よ育て。俺も仕事仕事…。橇風呂を二号車に追従するように指示したら、《感知》を周囲一キロハーン、前方に五キロハーンの楕円に張り巡らせる。敵性対象は取り敢えず居ないみたい。目を瞑り、浴槽の縁に体重を預けて体力の消耗を極限まで抑え、索敵に集中した。
五オコン程寝…索敵して開けた土地に着いた。昼食の為の休憩地であると言う。取り敢えずは順調と言う証拠だな。昼飯を作って食ったら直ぐに立つそうで、ゾーイ車が止まると同時にメイドが飛び出し一号車からテーブルセットやら食料、携帯竈を取り出して食事の準備に取り掛かって行った。丸太状態のままで橇風呂から降りようとする二人は見習いなさいね?
丸太二本と俺は護衛と一緒に周囲の警戒だ。休憩地を縦横無尽に駆け回る橇風呂の操縦者が要警護対象である。楽しげに雪を飛ばして居るが、雪をぶっ掛けられたゾーイにして見ればいい迷惑である。
「ハーク、ゾーイに雪を掛けるならもう乗せないぞ?」
ゾーイに駆け寄り素直に謝るハークは良い子だ。
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