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折衷案
しおりを挟む鉄球の打ち上げがある為、翌日は休みと告げた昨晩はとてもお楽しみでした。寝てる二人を起こさぬように部屋を出て、朝飯食べたらギルドに向かう。
壁に沿って歩いて行くと、ギルド前に何故か人集りが見える。とても嫌な予感がするので《阻害》を掛けてそーっと行きます。
人集りの中心は全身真っ赤なフル装備のジョンくんでした。その周りには冒険者復帰を祝う市民に冒険者。珍しい人を見に来た野次馬等々、寒いのによく集まったもんだ。こっそりギルドにインしてしまおう。
「カケル!待ってたぞ!?」
「え!?」
素で驚いて声に出てしまった。
「お、そっちに居たか!こっちだこっち」
偶に居るのだ。神経がピリ付いてたり、本当に強い奴には俺の《阻害》は効きにくい。Aランクは伊達じゃ無いようだ。
衆目の目が、俺の答えを待っている。
一。
「おはようございますギルドマスター。本日はお供に加えて頂き感謝の言葉もありません。他の方の到着を待ちたいと思いますので自分は中で支度等させて頂きます」
二。
「よう、ジョン。今日は面倒に付き合わしちまって悪りぃな。同行者が来るまで中で休ませてもらうぜ!」
何方も何かダメそう。
「おはようジョンくん。今日は特に赤いね。顧問の人達が来るまで中で温まってるから、じゃ」
結果、折衷案にしたのだが、ギルドにインしたのに怒号が聞こえる…。
「この野郎、ギルマスに向かってジョンくんだとー!」「てめぇ何処のゾーイの骨だ!?」「俺達のジョンさんになんて口の利き方しやがる!」「キャー!ジョンきゅ~ん!」
…と、この通りである。人気者なんだなジョンきゅん。
「止めろお前等!彼奴は俺の理解者だ!誰にも手出しさせねぇぜ!」「キャーーーーー!!」「ジョンさぁーーん!」
女達の、そして一部男達の黄色い声でとても煩い。暫くキャーキャーしていたが突然静かになる。外を覗くとどうやら老人達が来たようで、二頭曳きのゾーイ車が二台、ギルド前に横付けされた。更に、鞍の着いたのが二頭居て、既にジョンくんが乗っていた。
「遅いぞカケル、早く乗れ」
「挨拶が先だろうが」
各車を回って朝の挨拶。何方も昨日の面子に使用人が一人付き、俺の席は無さそうだ。やはり俺は騎乗せねばならんのか?原付迄しか乗った事無いんだが…。
「今日は宜しく頼む。初めてだから優しくしてくれ」
鞍の着いたゾーイを撫でながらそんな事を言ってみる。馬は頭が良いから分かってくれるとか言うけれど、ゾーイは如何な物か。ホルストは頭良かったなー。ブヒュブヒュ言っておでこを擦り付けて来るのは親愛の証であって欲しい。もじゃもじゃがしっとりして居られる。
鞍に手を掛け颯爽と乗り込むように…見えるように、飛んで乗った。勿論少し浮いておく。初めては尻が痛いってテレビとかで見たしな。
「ヒャッハー!行くぜー!」
ロデオの如くビョンビョン飛び跳ねながら門に向かうジョンくんを目指し、ゾーイ車はゆっくりと進む。それを見て後ろを歩いて行く俺を乗せたゾーイ。良い子だ、よしよし。もじゃもじゃの付け根は乾いてふわふわ。素手ならさぞ暖かかろう。
「ウオーッ!ケブは何処じゃ!ウオルス出て来ーい!」
街道を進む事小一時間、先頭を行くジョンくんは常にこのテンションだ。デスクワークのストレスを遺憾無く発散されて居る。ケブもウオルスも白い虎っぽいのだって、あんな殺る気満々マンに近付いてくような命知らずは居ない。おかげで煩い以外はとても平和に目的地に着いた。
無人になってる宿営地である。街道の左右よりは低いが積雪でゾーイ車は入れない。ジョンくんは駆けずり回ってる。
邪魔な雪とジョンくんを浮かせて林に捨てた。
「今俺飛んでたろ!飛んだだろ!」
元気なジョンくんだ。
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