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燻製

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「カケルゥ、前の家…」

「あれがどうかしたか?もしかして解体する心配とかしてるのか?」

「ん…」

「雨の日はあっちで寝るし、残す予定だよ。居間のテーブルとかをデカくしなきゃならんけどな」

「良かった」

「家具に関してはお任せ下さい」

「任せよう」

心做しか、テイカもほっとした様子。拘って鱗嵌めてたもんな。


 雨の話をすると、何故か必ず雨が降る。夕飯を食べ始めた頃に降り出した雨は、食べ終えた頃にはだいぶ強まり、絶対外に出たくない、と言う強い信念を持つに至る。おかげで新居の寝室をまだ見てないんだけど…。

「カケルさん、今夜は一緒に寝ますね」

「我等もそうさせてもらう」

「カケリュ!むちゅー」

「旦那さま、毛布を沢山買っといて良かったですね!」

「結果的には良かったな」

「カケルしゃま!カケルしゃま!」

寝所へ行こうと席を立つと、女児のちっちゃいのが不安げな顔でやって来た。この子の笑顔の為ならば、雨と闘う用意あり。立てた膝を再び下ろし、膝に抱いてあやしてやる。

「どうした?タマゲル達が心配か?」

「うん!」

《感知》で探すと燻製小屋に居る一匹以外は、皆ゲルの壁に張り付いて集まってるのが分かった。燻製小屋の奴はブレない性格か?それとも燻製味が好きなのか?

「皆雨風凌いでるから大丈夫だよ。明日晴れたならご飯を上げてやってくれ。雨なら俺がやっておくから」

「うん!カケルしゃまだいしゅき!」

「俺もだ」

抱き着かれたのでチュッチュしてると視線が痛い。見えない何かが当たる感覚まである。怪我等しては堪らんので名残惜しいが寝室に向かおう。そしてほぼ眠れぬまま夜が明けた。

「…眠い」

「朝になる迄ヤって居ればそれは眠かろう」

早々に寝てしまった駄メイド一号が心無い事を言う。

  「人並みに眠さのあるカケル様にほっとします」
寝惚けて俺の顔に跨って小便した駄メイド二号は此奴です。

ぐっすり寝ていた他の女達も段々に起き出して残るはリュネ一人。そっとしておこう。


 外はしとしと。タマゲル達にご飯をやらにゃならんので、マントを羽織って外に出た。
居住区の北側。雑多に生えてる低木を、剪定するように枝を払って《収納》してく。

「タマ達ー、ご飯だよー」

ゲルの壁にくっ付いて、湿った床から避難してるのが五つ。残りの一つは燻製室を食べているので放っといても良いだろう。このままでは給餌出来無いので床を一段上げてやり、《洗浄》して乾かした。やはりタマゲルは湿り過ぎが好みでは無いようで、乾いたと気付くとぴょんぴょんぷるぷる床に降りて来た。
剪定した枝葉を粉砕し、小さく押し固めて《収納》から取り出すと、ポロポロした緑色の塊が兎の餌のペレットに見える。一匹の前にそっと置くと、寄って来てシュワシュワやりだした。他のも寄って来るので先ずは一個ずつ頭の上に乗せてやる。皆が落ち着いて食べられるように五箇所離してペレットの小山を作って、ゲルを出た。
念の為、燻製小屋の奴も見に来たが、支柱にしてる木にへばり付いて皮をシュワシュワしていた。何となく茶色くなった気もしなくも無いが、食べたら燻製味になってるのだろうか?こっちにもペレット少し置いておこう。
燻製小屋を出ようとしたが、雨足が強くなっているので外に出たくない。朝飯まだだし、吊るしてある燻製を削いで摘みながら雨が弱まるのを待つ。
焼いてなくて硬いけど、燻製ちゅぱちゅぱ美味しいです。薄暗い小屋の中、ふわりと浮いて横になり、眠くならない筈も無く…zzz
気付けば外は暗くなっていた。腹は減ったが体はスッキリした気分。偶には独り寝も良い物だ。
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