女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

クアー

　やはり淹れ慣れた人の淹れるお茶は美味いな。カラクレナイを背負ってギルドを出たらそのまま寝具店に帰り、ママ上殿のお茶を頂く。

「カケル様の魔道具に新商品が出来たとか？」

「その内卸しますよ」

「ママ～？目が怖いよ？」

「あらやだ。カケルちゃん、ママ怖くないのよー？おっぱい飲む？」

「のっ！」

イゼッタ、痛いよ…。条件反射を利用して来るなんて流石ママ上殿だぜ。寝具店に居座るとふとした拍子に吸い付いてしまいかねないので早々にカロ邸に移動しよう。今回はサミイも同行するそうで、カラクレナイを背負っている。
カラクレナイを装備したサミイは、飛べる。便利と言うより楽しそうだな。取り敢えず荷車に乗って、続きはカロ邸の広い庭でやろうね。

カロ邸に着くとアルネスが出迎えてくれた。

「ホルスト無しで走る荷車を見てもしやと思いましたがやはりカケル様でしたか」

「カロが泊まってけって言うから来ちゃった」

「其方の方は…、ダワンさんの所の」

「何時もご利用ありがとうございます！娘のサミイです。で、こっちはカララさまです！」

「クアー」

「当家は騎龍の家柄ですがドラゴンを乗せた人は初めてです。お茶を淹れますのでどうぞお部屋でお寛ぎ下さい」

「サミイとカラクレナイを庭で遊ばせても良いかな？」

「お手柔らかにお願い致しますね」

許可が下りた所でわーいって言いながら飛んでった。本日三杯目のお茶である…って、色々やる事あるのをすっかり忘れていた。建具屋に行って核の在庫を確認して、数が揃っていないなら海に取りに行かねばならん。それにカラクレナイの服も作らなきゃ。

「これから出掛けるが二人はどうする？」

「カケルに付いてく」

「カケル様、あたしは食材の買い出しに行こうかと思います」

イゼッタにひっ付かれ外に出ると、カラクレナイ達も飛んで来た。

「旦那さま、おでかけですか？」

「ミズゲルの核を調達するんだ。カラクレナイの服も見繕ってやりたいが、一緒に行くか？」

「ギャ」

嫌みたい。

「カララさま、女の子が裸で彷徨いてたら恥ずかしいですよ？それに、旦那さまの服みたいに留め具が付いてればうっかり手を離しても落ちないですし。カララさまもお洒落して旦那さまに見てもらいましょうよ！」

「サミイ用のハーネスも作って良いぞ」

「クルル…」

渋々同意したように見える。硬い鱗に覆われた裸族には服など無用なのだろうな。

「無理強いは良くないし、用事が済むまでお留守番しててもらおうか」

「は「ギャアアー！」」

置いてかないでーって意味だろう。突然飛び込んで来てハグされてべろべろ。甘えん坊さんめ。俺とカラクレナイの間に居たイゼッタとサミイは潰れていた。


「何だお前それ…ってダワンとこのサミイか」

串焼き屋のホイットニーである。昼飯に串焼きでもと寄った所、翼を生やしたサミイに驚いているのだ。サミイは街の子なのでとにかく声を掛けられる。混んでるので飛びはしないがモンスターを背負ってるからな。それにしても顔が広い。
葉っぱで包んだ串焼きを《収納》して、先ずはエメラルダスの所に向かう。混んでて食う場所が無いからだ。

「いらっしゃい。イゼッタちゃんもお久し～」

「痩せたね」

「でしょ？まだまだだけどね。今日は何の用？カケル様の装備はまだよ？」

「追加で此奴等の装備を頼みたい。俺のは後回しで良いから」

「あらサミイ…え？何？」

「此方はカララさまです。カララさま、こちらは防具屋のエメラルダスさんですよ」

「クァー」

「は、はぁ…」

冷や汗かいて動けなくなってしまったようだ。