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だいすき
しおりを挟む時間は既に夕方に差し掛かり、空飛ぶ二人はとても切なくなっている。昼飯食わずに壁作りしてたからなー。街道の上空をナンシー達を探しながら飛んでいると、森を抜けた薮と砂漠の境界辺りでキャンプを張ろうとしている集団を見付けた。
薮の枝を組んだ簡易テントに、枯れ枝を集めて焚き火の支度。懐かしいな。食料とか無いだろうし恩でも売っておくか。
「イゼッタ、肉でも狩るか」
「カケルは優しい」
「ダメか?」
「だいすき」
大陸全土を見た訳じゃ無いが、少なくともこの辺りには、みんな大好きゴーラが居ない。食える肉を探して飛ぶと、よく岩山に居る山羊っぽい野獣と、蛇や俺が殺したブフリムを主食にしてる鳥しか居なかった。大きい方の山羊っぽい奴にしよう。
山羊っぽいの中でも大き目の奴を《集結》させると二十匹程集まった。これだけ居れば皆食えるだろう。ササッと首を刈り、臟を抜いたらイゼッタの水魔法で血を抜き洗う。
鳥がお腹空いてるので、素早く《収納》してその場を離れた。お掃除ご苦労様です。
「せんせ、ご飯持って来た」
仮設キャンプに着いた俺達はナンシーに山羊っぽいのを出してやる。ついでに塩と、皮剥用の洗ったけどちょっと臭いナイフも付けた。
「カケル様、イゼッタ、二人の施しに感謝致します」
早速住民の中から解体出来る者、料理の出来る者が集められ、串焼きと敷物になった。その間に傷病者をイゼッタが回復させ、俺はキャンプ地の周りを三ハーン程の高さの壁で囲った。出入口に門を作りたいが材料が無いので放置だ。
「もう此処に住んでもええよな」
好きにしたら良い。飯は自分で取らなきゃならんし水無いぞ?
塩味の串焼きを一本ずつ貰って、齧りながら帰った。ゴーラ程では無いが肉汁があって不味くなかった。順調に歩けば明日には岩山の麓には着けるだろう。宿に着いたら飯風呂して寝てしまった。
翌日の朝、ギルドの職員がギルマスの呼び出しを伝えに来たので朝食を済ませてから向かった。話が通っているのでFラン冒険者でもギルマスの部屋に簡単に通された。
「やっと来たか、…まあ座れ」
ソファーに座る俺の対面に渋い顔のおっさんが座り直す。長居したくない顔だ。
「壁に穴が空いたと思ったら街が出来ていた」
「ナーバーグからの難民用の仮設区域、とでも思ってくれ」
「アレをナーバーグでもやるのか?」
「あっちはもっと凄いぞ?街全体だしな」
「で、そっちは何時出来る?」
「外側はもう終わってる。中は唯の更地だから後はプロに任せるが、門と建物を作れば城にでも要塞にでもなる」
「早速手配しよう」
「そうだ、岩山について聞きたいんだが…、掘っても良いか?」
「一応防御の要なんだがな」
「流通の便が良くなれば此処も潤うぞ?門は作ってもらうが」
「分かった。好きにしろ」
「横穴掘るのを禁止にしとけば治安も悪くならないだろうしな」
「…なあ、カケル。お前はこの国をどうしたいんだ?」
「俺な、ぶっちゃけこの国には何の未練も無いんだ。家はヒズラーに建てちゃったしな。別にイゼッタの仇討ちをしたかった訳じゃ無いし、嫁の避妊魔法を解除出来ればそれで良かった。今回はイゼッタの恩師を助ける為、それだけの事なんだよ」
「それでこれだけの慈善事業をするのか?」
「してもしなくても良いんだが、便利な方が良いだろ?俺が出す金は宿屋代と馬屋代くらいだし、金を出すのは街に住む人達だからな。あ、そうだ。その内属性魔石を売るつもりだ、なるべく安価でな」
「属性魔石の利権の為に街一つ更地にしたってのか?」
「逆だよ。更地にして地下水路を潰したら井戸を掘り直さなきゃいけないだろ?属性魔石の水に依存させればギルドに魔力補充の依頼も増えるだろうし、今回の手間賃代わりに良いかと思っただけだ」
ギルマスが唸りを上げた。話は終わりなようなのでそっと退散した。
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