上 下
169 / 1,519

殺生与奪の権利

しおりを挟む


 ギルマスが帰り、テイカがドアの仮設を終えた頃。俺とイゼッタは街の外の森に居た。テイカが仮設したドアの材料も此処の木である。
着の身着のままで来るだろう難民に、家をどうこうする手段は、多分無い。なので雨風を凌げるだけの空間を作らねばならないのだ。
何時もならイゼッタに依存して切った張ったしているが、今の俺は条件付きでスキルが使える。出来ない事など殆ど無いのだ。

街の壁を中心に半径百ハーンの木を伐採し、森の上に浮かせた。イゼッタに浮いた木を製材してもらう間に、切り株の生えた地面を《散開》で粉末にしたら《集結》で硬く平らに整地した。
次に、外周を《伸縮》で×深さハーン程で陥没させて堀に、すぐ内側を高さ×厚さハーン隆起させて壁とした。
新しい壁に沿って《伸縮》を使い、三十の小部屋を作る。二階建てなので六十部屋だ。箱建築は楽で良いな。階段は頭を使って一階正面の壁と一体化させてみた。
部屋の前五ハーンを道として、端と中程に通路を作り十八部屋、二階建てで三十六部屋となった。

一先ず窓もドアも無い集合住宅が出来た。
まだ空間はあるが足りなかったらまた作れば良いか。材木を空いたスペースに置いたら、堀に水を張ってもらい、街の壁に穴を開ける。
イゼッタの風魔法と俺の《散開》で音も静かにアーチ状の入口になった。ギルマス気付いたら驚くだろな。


 宿に戻って夜まで時間を潰し、再びナンシーの元へ飛んだ。

「ある程度住める場所をエディアルタに確保した。移動する支度をさせておいてくれ」

「どの様な…、いえ、その時になれば解りますね」

「因みに、何人くらい居る?」

「孤児や病床者を含めて、ざっと百人と言った所でしょうか」

「それなら問題無さそうだな。明けて翌日の朝に出発したいが、行けるか?」

「分かりました。何とか説き伏せてみましょう。それでも残りたいと言う者が居た場合は…」

「放置して構わない」

「……」

「情けは掛けないから、そのつもりで」

「貴方に…、殺生与奪の権利はありませんよ?」

「そうならないようにするのがお前の仕事だ」

「善処します」

ほんと、駄々を捏ねる奴が出ない事を祈る。長居してしまったのでぶっ飛んで帰った。

「おかえり」

「ただいま」

窓を開けてくれたイゼッタを飛び込み様に抱き上げて帰宅した。

「明日の夜、やる」

「ん。私も行く」

故郷の最後だ、見納めも良いだろう。テイカには難民施設のドア作りを頼み金を渡しておく。手が足りなけりゃプロを頼れ、手が空けばその分他の事が出来るからな。

「カケル、明日はリアさんと用事がある。一人でいい子にしてて」

ママ~んと抱き着いたら撫でられた。多分やんごとない用事だろうし俺はノータッチで良いな。明日は夜までゆっくり過ごそう。


 翌日。テイカとフラーラはドア作りに行き、イゼッタとリアはテーブルに向かい合わせて何かして、ノーノはお茶等淹れている。俺は夜まで暇なので、カバンを提げて外に出た。スケイルの実がまだ成ってるみたいなので摘んで来ようかと。
難民施設でテイカ達の様子を見ると、地元の大工と仲良くドア作りしてた。フラーラもお茶汲みしてるな。仕事の邪魔をするのも悪いので《阻害》を使ってそっと壁から外に出ようとすると、見られてる気がして振り返る。テイカがこっち見てた。何故判るのか?

食べ頃のスケイルの実を三十個ばかり摘んで堀を超える時も見られたので夕飯の時に聞いてみたら、朝は《阻害》を使う前から気付いてたからこの辺りだろうと目星を付けた。夕方はそろそろ帰って来る頃合に、甘い香りがしたから。…だそうな。
すごいぜ…。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...