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びちゃびちゃ
しおりを挟む多分厄介事なんだろうなー、と思いながら人の居る真上まで来た。
「穴がある」
「穴?洞窟とかか?」
水レンズで覗き見てるイゼッタに聞き返し、俺も覗き見るが、森の中にぽっかりと、でっかい穴が空いている。地下水の侵食でなんとか…って、地球のテレビでやってたな。そんな感じの物かも知れない。
森の中には荷車を降ろせないので穴に直接降りて行く。深さは五~六ハーン程だろうか?穴の横二箇所は奥に続いている。女は壁側に横たわっていてすぐ見つける事が出来た。
落石の積もる地面に着陸し、女の救助に向かう。
女はだいぶ消耗しているようだ。近付いた俺達に視線を向けるが動く事もままならず、プルプルと震えている。
「イゼッタ」
「今水出す」
コップが無いので小さな塊のまま女の口に水を付けると少しずつ喉を動かした。
「怪我の様子を見るからな」
「……ばぃ」
ガラガラ声の返事は力が無い。
「私がしますね。カケルさんは食べ物を」
アズが女の体をチェックしてる間に、さっきまで摘んでた木の実を持ってくる。
「これはあたいに任せて、カケルさんは荷車を寄せて来ておくれよ」
荷車に蜻蛉返りである。荷車を女に寄せると今度は横穴の警戒に行けと言われた。消耗する程ここに居たのにモンスターや野獣が来るのだろうか?解せぬ顔で横穴を見に行った。
結果、なーんも無かった。ギフトでも確認したが害意を持つ者は無く、脚が沢山生えた虫しか居なかった。
「カケルさん、もうちっと待ってて」
シトンが済まなそうに頼むので、尻を乗せるのに良さそうな落石に腰掛けて待つ。どうやら水浴び等してるようでびちゃびちゃと音がしてる。まさか荷車の中を風呂にしてるのか?乾くまで座れないんだがなぁ…。
座ってると尻が痛いのでちょっと浮いてたらついウトウトしてしまったようで、イゼッタが迎えに来た。
「おはよう。出掛ける準備が出来た」
「そうか…。なら行くか」
イゼッタに抱き着かれ荷車に戻ると、サッパリした女が座ってた。服も洗って乾かしたようだな。
「助けてくれてありがとうございます」
「生きてて何よりだ」
女が頭を深く下げ謝辞を表すと、顬の上に深い傷跡が見えた。
「傷があるな。イゼッタ、治せるか?」
「無理。古傷までは治せない」
「この傷は…、気にしないで下さい。治す訳には行かないので…」
「分かった。とにかく住んでる所に帰すよ。場所は何処だ?」
「…ありません」
「無いのか。俺達はメルタールに向かうんだが、一緒に行くか?」
「良いんですか?」
「置いて行ったら死んじまうだろ?」
「…そうですね。御一緒します」
「街に着くまで寝てると良い」
ゆっくりと飛び上がり穴から出ると森の街道に向けて移動した。
街道を音も無く進み、寝ている女に視線を向ける。長く銀色の髪の隙間から見える大きな傷は左右対称に付いている。白い肌に赤いケロイドが痛々しい。
「浮気、ダメ」
「そうだな」
イゼッタを引き寄せ撫でてやると、そっと耳打ちして来た。
「あの子、多分獣人」
「耳は普通だぞ?」
「尻尾を切った跡があった」
「痛そうだな。種族は分かるか?」
「んーん」
「そか」
尻尾があり、頭を傷付けてでも人の振りをする獣人、か…。山羊かな?
街道を暫く進んでいると空がやんわりと暗くなって来る。草原側の街道と合流し、更に進むと追い越したかった商隊の野営地が見えて来た。彼等は此処で一泊して朝一で街に入るのだろう。即ち、今進んでも街の入口で立ち往生する事になる。
俺達はどうするか?
「止まれー!」
用心棒的な男が煩い。
「何だ?一緒に泊まってっても良いのか?」
荷車から身を乗り出してボケてみた。
「そうじゃない!車を止めろと言っている!」
「野党かどうかも分からん奴に止めろと言われてお前は止まるのか?」
「俺は《魂の翼》のヴィレン、商隊の護衛をしてる冒険者だ!」
「俺はバルタリンドの冒険者カケルだ」
「妻のイゼッタだ」
真似んな。
「友達以上のアズだ」
「恋人未満のシトンだ」
お前らも!
「…私も名乗るのでしょうか…?」
起こしちゃったじゃないか。
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