139 / 1,519
由々しき事態
しおりを挟むアズとシトンに案内されて森の街道に来た。荷車がすれ違うギリギリの幅の土の道は回転も出来ない。しかも荷車の腹を擦る程の深い轍が出来ていて、道の横には薮や太い木々が生い茂っている。イゼッタの水レンズで上空から覗いているのだが、これは絶対に降りたくないぞ。
街道の入口付近に見張りを立てて、轍に乗り上げた商隊を囲って襲うのにバッチリな立地じゃないか。
「やる?」
正直荷車やお客様が居なければイゼッタと二人で何とでも出来ると思う。荷車を降ろしてやる場合、荷車を壊される可能性がある。
「何考えてる?」
「降りたら荷車壊れそう」
「頑張って作ったもんね…。なら此処から魔法でも撃つ?」
それもありか。ギフトで商隊が居るか調べると、居ないと出た。まあ納得の道だしな。ついでに一般人や冒険者が居るかも調べたが冒険者は居らず、一般人も街道沿いには居ないと出た。これなら平気かな?
「街道沿いには人は居ないみたいだ」
「ん。なら道を太くしとく」
杖を持ち、荷車から身を乗り出したイゼッタが、魔法で巨大な旋盤を何枚も作り出す。落ちないように上から保持して見ているが、ざっと直径三十ハーンはあるな。旋盤は縦積みにされているので何枚あるかは分からんが等間隔に並んでるみたいだった。それを街道の入り口に落とすと、触れた木がおが屑に変わる。あ、何か赤いのが見えた。
一番下の旋盤が地面を削り出すとその場で留まる。街道の真上を飛ぶ荷車と同じ位置の草木を切り刻み、おが屑にしながら進んで行った。
「魔力はどうだ?」
「一度作れば維持だけだから。魔法で邪魔されなければ問題無い」
「とんでもない魔法ですね。初めて見ました」
「自慢の妻だ」
「えへへ。慣れれば誰でも使える」
轍は多分、多少は削れてると思うのだが、おが屑に埋もれてどうなってるかは分からない。それでも道幅が広くなって光が当たるようになった分通りやすくはなったかな?賞金首で一儲けは出来なかったが荷車を壊されるよりはマシと考えよう。
ボランティアの公共工事をしながら街道を進んで行った。
街道の出口まで一キロハーン程となり、此処からは地面を行く。タイヤに負担を掛けたくないので地面スレスレを飛んでるけどな。
数ハーン前では依然バリバリと道作りしてるので音とおが屑が凄い。野獣やモンスターは音にビビって逃げ出したのだろうか、全然見ない。野党も同じく逃げたようだ。
暫くすると森を抜け、草原に出たので魔法を解いてもらう。
「イゼッタ、お疲れさん」
「もっと褒めて」
「撫でてやるからもう一仕事頼む」
頭を撫で撫で森の方を指差した。
「森の中に人が居るんだよなー。すげー気になる」
「女?」
「ああ、気になるだろ?一般人みたいだし」
「けどそろそろお昼。お腹空いた」
由々しき事態だ。
空腹になるとイゼッタは切なくなってしまうのだ。今は料理道具も無いし、森の中で生食出来る木の実でも探すか。ワタウリみたいに樹冠に成ってると有難いのだが…。
森のてっぺんギリギリまで飛び上がり、生食出来る木の実を探し移動すると、木の幹に直接成ってる木の瘤の様な木の実を見つけた。俺は荷車から出られないのでイゼッタが飛んで取りに行く。荷車にポイポイ投げ込まれた物を掴み取ると、見た目はライチみたい。しかしかなり硬いな。十個程投げ込んでイゼッタが戻って来たので大鉈で割ってみると、一口サイズの黄色いふわふわがポロポロ零れ落ちた。
「カケル、あ~ん」
自分も空腹だろうに俺に食べさせてくれるなんて…、俺を毒味役にするつもりだな?
味は南瓜味でふわふわのパンだった。ちょっと青臭い。
「…食える。スープに浸して食べたいな」
「はむ…。んん、味の付いたソーサー」
皆で木の実をハムりながら一般人らしき者の場所に向かった。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す
SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。
だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。
前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。
そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。
二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。
たとえそれが間違いでも、意味が無くても。
誰かを守る……そのために。
【???????????????】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。
また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。
各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる