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野宿
しおりを挟む今夜の夕飯は新鮮なゴーラの焼肉と、ウロの実等採れたての木の実だ。
はい、野宿です。ぶっ飛んでって滑り込めばセーフと思ったがそれは多分アウトなので湖の家のある島で車中泊する事になった。
「家を壊して正解でしたね」
イゼッタは不服そうだが誰か島に侵入した形跡がある。古い焚き火の跡が湖畔に放置されていたのだ。人の気配は無いので今は安全だが、もう住める場所では無いな。
人で無い気配はある。食事を済ませた俺達に寄ってくる影が二つ。
「生きてたか」
ボロボロになった木のモンスターだった。
刃物で斬られ、鈍器で折られ、モサモサだった葉も禿げ散らしてしまっている。
「イゼッタ、治せるか?」
「ん」
手を発光させて木に当てると幹に付けられた袈裟斬りの痕が元に戻った。折れた枝は一度切って光を当てると元の姿を取り戻した。葉っぱもモサモサになった。
二本の木を治した。切り取った枝は植樹すると大地に根を下ろし、五ハーン程の若木になった。百年後には黒っぽい森になるだろう。
木のモンスターがこんな姿にされたのだ。タマゲルは大丈夫だろうか?穴から出なければ殺される事も無さそうだが餌が無いからな…。トイレ跡に向かうがタマゲルは居なかった。
「森の中に逃げ落ちている事を祈りましょう」
「そうだな」
明日は夜明けには門に着きたいので早起きするぞ。
…と、思っていた時期が俺にもありました。
目覚めたらもう明るいんだもん。皆も寝てるし。
全員を叩き起し、飛んで森を超えた。
街道沿いを少し早めに走ってく。尻が痛むので当然浮いているのだが、ホルストも付けずに走る荷車に、歩いてる冒険者共が五月蝿い。
その都度イゼッタに風を吹き散らしてもらい加速する…振りをしてるが、好奇心は猫を殺すぞ?
スキルを使って追いかけてくる馬鹿に、たまたま車輪から跳ねた石がたまたまに襲い掛かる。寸での所で躱した瞬間、たまたま後ろから飛んで来た石がたまたまに直撃した。
男はつらいよね。追うのを辞めて動かなくなった。
俺の仕業ですてへ。
街に着いたらそのまま寝具屋に向かう。この荷車は目立ち過ぎるのだ。
「可愛い妻よ、帰って来たぞー」
「旦那さまー!おかえりなさい」
客そっちのけで抱き着いて来るサミイを受け止めて、続きは後で、と裏口を開けてもらった。
荷車とホルストが居る。これは王女のホルストを親父に下賜したもので、行商に扱き使われている。親が帰って来てるみたいだな。
「おお、カケル様。おかえりなさいませ」
「親父殿も元気そうで何より。暫く荷車を停めさせて貰うよ」
「好きなだけお使い下さい」
「パパーお店代わってー!後今日は帰らないから」
サミイをおぶってゾロゾロ家に入って行った。
「サミイ、台所見せて」
「え?構いませんよお茶を淹れるので一緒にどうぞ」
俺は初めて見るが、庶民の台所は古い時代に西洋で使われていた台所に似ていた。
暖炉のような竈に、オーブンと思しき扉付きの何か。そしてまな板の置かれたシンクに、中には桶。水瓶に食器棚。火事にならぬよう、大体が石造りになっている。
オーブンの中を確認したり、色々見て大体覚えた。
そして気付いた。うちには五徳が無いのだ。石を五徳代わりにしてて気付かなかった。
お茶を沸かしてる最中も観察してたら奥さんが台所に入って来た。
「あら?男性はこんな所に何時までも居てはいけないわ?」
「母上殿も暫くぶりだね。料理は妻達に任せてるけど台所を作るのは男手が必要なんだよ」
「こんな庶民の台所で良いのかしら…」
「城の台所も機材の数と燃料が違うだけで形は変わりありません」
炭火の魔力と言う奴か。魔力の火は二酸化炭素と水でも発生させるのだろうか?そう言えば炭を売ってるの見た事無いや。
「旦那さま、ママはおめでたなんですよ!」
「それは良かったな」
「私はまだなんですけど?」
「私も」
イゼッタはともかく、サミイがまだなのは運が無かったとしか言えない。
「今夜は寝ませんからね!」
「それは良いが、家の女二人が孕んだら生活どうすんだ?炊事洗濯掃除色々」
「カケル様、そこは家政婦組合があるので大丈夫ですよ」
家事代行の相互扶助のシステムだけでなく、料理や掃除、洗濯の仕方なんてのを教える組合なのだそうだ。
冒険しか出来ない新妻も技術を学べるし、技術が上がれば家政婦として金を稼げる。
何とも上手い商売だ。
そんなこんなでお茶の時間だ。
客室にてお茶を啜りながら大きいシーツの事を聞いたが、機械の関係で一枚物は殆ど出回らないとの事。使う機会も無いが、使うとしても糸と針で縫い合わせるしか無いと言う。
「普通のシーツを重ねて使うのが良いかと存じます」
「同意」
「お買い上げありがとうございます」
「前と同じ大きさのを十枚用意しといてくれ」
「そんなにお嫁さん増えたのですか?」
「洗い替えだよ!」
少し余分に金を渡して一度寝具屋を出る。
次はギルドかな、距離的に。
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