93 / 1,519
野宿
しおりを挟む今夜の夕飯は新鮮なゴーラの焼肉と、ウロの実等採れたての木の実だ。
はい、野宿です。ぶっ飛んでって滑り込めばセーフと思ったがそれは多分アウトなので湖の家のある島で車中泊する事になった。
「家を壊して正解でしたね」
イゼッタは不服そうだが誰か島に侵入した形跡がある。古い焚き火の跡が湖畔に放置されていたのだ。人の気配は無いので今は安全だが、もう住める場所では無いな。
人で無い気配はある。食事を済ませた俺達に寄ってくる影が二つ。
「生きてたか」
ボロボロになった木のモンスターだった。
刃物で斬られ、鈍器で折られ、モサモサだった葉も禿げ散らしてしまっている。
「イゼッタ、治せるか?」
「ん」
手を発光させて木に当てると幹に付けられた袈裟斬りの痕が元に戻った。折れた枝は一度切って光を当てると元の姿を取り戻した。葉っぱもモサモサになった。
二本の木を治した。切り取った枝は植樹すると大地に根を下ろし、五ハーン程の若木になった。百年後には黒っぽい森になるだろう。
木のモンスターがこんな姿にされたのだ。タマゲルは大丈夫だろうか?穴から出なければ殺される事も無さそうだが餌が無いからな…。トイレ跡に向かうがタマゲルは居なかった。
「森の中に逃げ落ちている事を祈りましょう」
「そうだな」
明日は夜明けには門に着きたいので早起きするぞ。
…と、思っていた時期が俺にもありました。
目覚めたらもう明るいんだもん。皆も寝てるし。
全員を叩き起し、飛んで森を超えた。
街道沿いを少し早めに走ってく。尻が痛むので当然浮いているのだが、ホルストも付けずに走る荷車に、歩いてる冒険者共が五月蝿い。
その都度イゼッタに風を吹き散らしてもらい加速する…振りをしてるが、好奇心は猫を殺すぞ?
スキルを使って追いかけてくる馬鹿に、たまたま車輪から跳ねた石がたまたまに襲い掛かる。寸での所で躱した瞬間、たまたま後ろから飛んで来た石がたまたまに直撃した。
男はつらいよね。追うのを辞めて動かなくなった。
俺の仕業ですてへ。
街に着いたらそのまま寝具屋に向かう。この荷車は目立ち過ぎるのだ。
「可愛い妻よ、帰って来たぞー」
「旦那さまー!おかえりなさい」
客そっちのけで抱き着いて来るサミイを受け止めて、続きは後で、と裏口を開けてもらった。
荷車とホルストが居る。これは王女のホルストを親父に下賜したもので、行商に扱き使われている。親が帰って来てるみたいだな。
「おお、カケル様。おかえりなさいませ」
「親父殿も元気そうで何より。暫く荷車を停めさせて貰うよ」
「好きなだけお使い下さい」
「パパーお店代わってー!後今日は帰らないから」
サミイをおぶってゾロゾロ家に入って行った。
「サミイ、台所見せて」
「え?構いませんよお茶を淹れるので一緒にどうぞ」
俺は初めて見るが、庶民の台所は古い時代に西洋で使われていた台所に似ていた。
暖炉のような竈に、オーブンと思しき扉付きの何か。そしてまな板の置かれたシンクに、中には桶。水瓶に食器棚。火事にならぬよう、大体が石造りになっている。
オーブンの中を確認したり、色々見て大体覚えた。
そして気付いた。うちには五徳が無いのだ。石を五徳代わりにしてて気付かなかった。
お茶を沸かしてる最中も観察してたら奥さんが台所に入って来た。
「あら?男性はこんな所に何時までも居てはいけないわ?」
「母上殿も暫くぶりだね。料理は妻達に任せてるけど台所を作るのは男手が必要なんだよ」
「こんな庶民の台所で良いのかしら…」
「城の台所も機材の数と燃料が違うだけで形は変わりありません」
炭火の魔力と言う奴か。魔力の火は二酸化炭素と水でも発生させるのだろうか?そう言えば炭を売ってるの見た事無いや。
「旦那さま、ママはおめでたなんですよ!」
「それは良かったな」
「私はまだなんですけど?」
「私も」
イゼッタはともかく、サミイがまだなのは運が無かったとしか言えない。
「今夜は寝ませんからね!」
「それは良いが、家の女二人が孕んだら生活どうすんだ?炊事洗濯掃除色々」
「カケル様、そこは家政婦組合があるので大丈夫ですよ」
家事代行の相互扶助のシステムだけでなく、料理や掃除、洗濯の仕方なんてのを教える組合なのだそうだ。
冒険しか出来ない新妻も技術を学べるし、技術が上がれば家政婦として金を稼げる。
何とも上手い商売だ。
そんなこんなでお茶の時間だ。
客室にてお茶を啜りながら大きいシーツの事を聞いたが、機械の関係で一枚物は殆ど出回らないとの事。使う機会も無いが、使うとしても糸と針で縫い合わせるしか無いと言う。
「普通のシーツを重ねて使うのが良いかと存じます」
「同意」
「お買い上げありがとうございます」
「前と同じ大きさのを十枚用意しといてくれ」
「そんなにお嫁さん増えたのですか?」
「洗い替えだよ!」
少し余分に金を渡して一度寝具屋を出る。
次はギルドかな、距離的に。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる