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欲望に忠実な二人
しおりを挟む茶色い熊をやり過ごした後は特に何かに襲われる事も無く、高い壁が目の前に聳えているのが見えた。
街道のある草原に迂回すると、人の列が並んでいたので一番後ろに並んだ。
大きな門に向かい並んでいるのは、用心棒を引き連れて馬車的な牽引車を曳く商隊や大きなリュックを背負った商人。そして冒険者。
小さな門からは農具を担いだ農民風の者が出入りしてる。
「小さい門って貴族が通るイメージだった」
「貴族が居ない時は解放してる。顔が判ってるから確認が楽」
住民特権か。羨ましい。
「俺は貴族だがこっちから通らにゃならん」
前に居た冒険者の男が振り向いて話し掛けてきた。
「冒険者があっちを使ったらボンボンだと思われそうだな」
「ハハハ、そう言う考えも出来るな。だが冒険者があちらを使う時は緊急の時だけだ。なので使えんのだ」
「俺の居た街は大きい門しか無かったからな、勉強になった」
「良いさ。所でお前達は冒険者か?」
「ああ。ギルドに寄るなら付いて行っても良いか?」
「構わんがすぐ目の前だ。迷う事は無い」
「その辺は俺の居た街と同じ感じなんだな」
「この街、バルタリンドは片側は海だし左右は森だから自然とこうなってるってだけの話よ」
会話もそこそこに前の男達まで順番が回り、次は俺達の番になる。
「お前達、さっきからメルゲル様と馴れ馴れしくしていたようだが、見ない顔だな」
「名乗り合う程の縁は無いが新参者の俺らに親切にして貰った。見習いたい物だ」
「冒険者ならギルド証を見せろ」
二人のギルド証を見せると門兵の顔が渋る。
「エディアルタ?聞いた事ない街だな」
「遠いからなー」
「まあ良い。その代わり寄り道せず直ぐにギルドへ行け」
「勿論だ。安宿の場所を聞かねばならんしな」
「良し、行け」
エディアルタ…俺の居た街の名か。知らなかった。
ギルドは三階総石造り。壁の一部を利用して物見櫓を兼ねた、厚みは薄いが幅の長ーい建物だった。長いだけあり入口も多い。
冒険者の波に便乗し、中に入るとカウンターも長い。天井から看板が吊り下げられて判り易い。買取カウンター遠いなー。お上りさん気分もそこそこに、《総合受付》の下に並ぶ。なんか病院みたい。
「次の方ー」
手を挙げ呼び込む受付嬢に足を向ける。
「こんにちは、どうされましたかー」
ほんと病院みたい。
門兵に行けと言われた旨伝え、二人のギルド証をカウンターに置くと、スッ、機械にサッ、カウンターにペッで終わってしまった。
無表情の癖にデキる社員め。おかげで二人の居所がバレてしまったかも知れん。
「図書室はどこかな?」
折り畳まれたパンフレットをくれたので人の少ない片隅に移動し二人でパンフとにらめっこ。
「宿と…ここはご飯屋さん」
「風呂屋は無いか?」
「んと…あった、ここ」
欲望に忠実な二人であった。
宿屋はギルドの対面に並んで建っている。どれにするかは俺より運の良いイゼッタに任せよう。
選ばずに一番近い所に突入していたが。
「いらっしゃいませー、うさぎ亭にようこそー。お二人様お食事2食付きで先払いの九千ヤンになりまーす。こちら部屋の鍵ですので二階の奥の部屋へどうぞー」
有無を言わさぬ間に部屋を決められてしまった。
悔しかったので金を支払い「うムっ!」と言ってやった。部屋は四平米くらいでちょっと広かったが、ベッドは一つだけだった。
「初夜ね?」
「昨日も初夜だったろ」
「おっぱいすら触らなかったくせに」
「温もりだけで満足だったんだよ」
…赤くなんなよ…。
肩掛けカバンにタオルを詰めて街を見て回ろう。先ずは昼飯!次は道具屋!
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