上 下
197 / 244

貴族の、浴室

しおりを挟む


「お食事の前にご入浴をお願いします」

 貴族街にある家にはどこも風呂があるのか?メイドさんの下宿にも風呂があるそうで、家主を置いてなぜか僕が1番に入る事になった。

「次が支えておりますので、お早く」

「ゆっくりしてらっしゃいよ」

「その代わり途中で乱入すっかんな」

「ロシェルに言うからな?」

 ニヤニヤするエヴィナに吐き捨てて、メイドさんに連れられて浴室へ向かう。さっさと出てって欲しいのに、貴族家らしく脱衣場で待っている。またかと思い浴室の中を確認すると、引戸を開けて湧き出す湯気に、中の様子が確認出来ない程だった。

「何、これ?凄い湯気なんだけど」

「お手伝いなさらないと入れませんね」

 ニコリとする顔が白々しい。諦めて、せめて見るなと一言置いて服を脱ぎ、タオルを巻いて浴室に入った。

 天井に魔法の灯りがあるのは分かるが、前が真っ白で足が竦む。すり足で進み、つま先が触れた壁は段差のようだ。この先にお湯があるのか?しゃがみ込んで手を伸ばすが、お湯も水も張ってない。どこでお湯作ってんだろ?

「あまり行きますと転びますよ」

「大丈夫、段差まで着いたよ」

「では、お気を付けて段を降りて下さいませ」

 段差に座ってその先に足を下ろす。床があってホッとする。無い訳は無いのだが。段差は1段。マイケル様の所での経験が、貴族家によくある浅い浴槽だと気付かせてくれる。

「入ったよー」

「お立ちになって、鼻と耳を閉じてください」

 なるほど、と思った。多分洗浄の魔法を掛けてくれるのだろう。長々と擦ってられないからな。

「……水の……集え、トイコス・ネロー」

 メイドさんが呟くと、背中に熱量を感じる。洗浄の魔法ではなく水の壁だったようだ。僕が以前この家のメイドさんに教えてあげた技を活用してるっぽい。

「おお、ちゃんとお湯だ」

「試行を重ねました」

 この浴槽に張った程度のお湯ではちょっと温いそうで、チンチンに沸かした鍋3つでちょうど良い湯加減になるのだそうだ。壁の高さは僕の背丈に合わせてくれたのだろう、肩くらいの高さで立って入るのにちょうど良い。壁の中に入って腰を落とし、頭の先から湯に浸かる。髪をワシャワシャして腰を上げると、正面にメイドさんが居た。

「ご立派になられて」

 下を向いて言うな。追い出して体を擦った。

「はいはいよしよし、怖かったわね」

「貴族なんてどこもこんなだぜ?慣れとけ慣れとけ」

 湯から上がり、客間に戻ってセーナに泣き付くとエヴィナは慣れろなんて言う。僕は平民、何度だって慣れる事は無い。慣れてしまったら1人で風呂に入れなくなってしまうだろう。

「昔あンたが言ってたお湯の壁、見て来るわ。エヴィナ様も一緒に入りましょ」

「だな、時間が勿体ねぇや」

 セーナは貴族式の入浴に抵抗無いのか?女同士だから気にならない?そうですか。そうですね。僕は1人、客間に残された。

「お嬢様がお戻りになられました」

 2人が湯に行きしばらくして、メイドさんがエリザベス様を連れて来た。随分時間が経ってたけど、着替えに行ってたんだったな。

「お帰、り…」

「戻りましたわ。2人は湯浴みかしら」

「うん。…普段からその格好なの?」

「荷物から出すのに時間が掛かりましたの。ダメかしら」

「凄く、キレイです」

 昼間のドレスを華麗と言うなら今の部屋着?は綺麗だと思う。白くて金色のツヤを放つ薄布のシャツをまとい、お腹には刺繍たっぷりのコルセットが薄布をまとめている。スカートも上と同じ薄布で、歩く脚にまとわりついていた。平民の、それも男に見せる格好じゃないんじゃないか?

「お気に召したようね。…あら、御髪が濡れていてよ?誰か、タオルを」「畏まりました」

 メイドさんが急ぎ持って来たタオルで僕の頭を拭こうとするのを止めたエリザベス様は、ソファーの後ろに回って後ろから髪を拭いてくれた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...