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時が、過ぎて
しおりを挟む鳥の声に風に揺れる木の葉の音。ここは多分演習場だろうか。僕の頭を抱えるロシェルの腕から力が抜ける。解放してくれるみたいだ。
「……」
「……離れてよ」
もうちょっとこうしていたい。けどしつこいのは嫌われるので少し離れる。
「吹っ切れて、くれるかな」
柔らかい物に話し掛ける。
「人が死ぬのに慣れてないもんね」
傭兵が殺す相手は敵兵だけではない。相手の国力を下げるため、町や村を焼く事もある。傭兵の新入りはコレで心を病むとロシェルは言う。レイナも同じだ。敵対した学生を焼いた事もあるのに、事故で殺してしまった学生には心を痛めてしまった。
「ロシェルはさ、どうやって慣れた?」
「自分以外は敵…ってね」
「なるほどね。人の事言えないけど、まだまだ甘いんだな」
「慣れすぎちゃ、ダメだけどね」
その方が人でいられるんだろうな。ロシェルの親は、彼女を人にしたかったのだろう。
昼休憩が終わり、授業に出て、放課後。教室を出ようとするマッチョ達を呼び集めたレイナが皆に告げる。
「みんなに心配を掛けてごめんなさい。吹っ切るのは、まだちょっと無理だけど、頑張ってみるわ」
「私もお側に付いてサポートしますので、どうか見限らないでください」
「レイナちゃん、私も一緒だよ?」
マキとジュンがレイナに続く。大丈夫。問題ないと優しい声が返された。卒業までまだまだあるのだ。じっくりやって行こう。
購買で買ったレターセットを取り出して、僕は紙にペンを走らせる。卒業まで残り100日となった事をセーナへ伝えようと思ったのだ。元気でやってるとか、いつが卒業だとか、おばあちゃんは…とか。そんな事を書いて封筒へ入れた。明日、ギルドに持ってって届けてもらうつもりだ。
明日から卒業の前日までは、全て実地訓練となる。年が明けて在学生は全員15歳以上になり、全員がギルド証を手に入れる事が出来た。ギルドでは職員に学生冒険者と呼ばれ、先輩冒険者からはひよっこと呼ばれるようになった。
「坊や達、今日から実地なのね」
「おう!まずは草摘みよ」「ね、姐さんのために頑張って来ます!」
今日は初日な事もあり、朝から激混みのギルドにて、長い列に並んで採集依頼を受ける。
エリザベス様のパーティーはミルコを対外的なリーダーにして自身は依頼中の指示に徹する事に変え、ペアだった元デブのオイシンが正式メンバーに加わった。取り巻き3人とエヴィナもいて7人パーティーだ。
「生きて帰りなさい。次は「クリスです!」ユカタ、コッチにいらっしゃい」
受付で対応するのはマキなんだけど、なぜか僕が呼ばれる。3人衆達は受付をルイ姐さんの所に鞍替えした。男はクリスとロナンと僕。女性は3人衆とロシェルで7人パーティー。気になる2人は採集メインの冒険者になるためペアに戻り、今は後ろにいる。
「私達も採集依頼です。よろしくお願いします」
「期待しているわ。頑張りなさい」
「あ、私達はペアなのでユカタ君達とは別でお願いします」「お願い、します」
「戦えるなら構わないけど、護衛に誰か付けなさい。今日はユカタ達の近くにいると良いわ。良いわね、ユカタ?」
「う、うん。大丈夫だよ」
ソロはもちろんの事、女性のペアは色々危ない。何がとは言わないが、早く男を作れと言われるらしい。
「そうだルイ姐さん。手紙を届けて欲しいんだけど、ここで頼めるの?」
「私宛じゃないのね、残念だわ。送り先と宛名、送り主の名前をこの用紙に書きなさい」
忘れる前に出そうと思ってお願いしたら、ルイ姐さんもお手紙が欲しいと言う。手紙なんて余程の事がないと送らないし届かないもんね。僕だって初めて送る訳だし、セーナは喜んでくれるかな。書類を書いて送料を払い、明日一番に街を出るそうな。ちなみに料金は町を越える毎に10,00U掛かる。ローウィラー、スコフィールド、ムルザバで30,00U。命懸けの仕事は高いのだ。
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