上 下
178 / 229

心の、傷

しおりを挟む


「多分、ブフリムウォーリアだよね、この魔石。こっちのがウォリスの大型、かな」

 ジュンは背嚢から魔石を取り出しロシェルの言葉が真実である事を示す。大ブフリムが2、大ウォリスと思しき魔石が4あった。

「今更だけど、思い出したわ」

 以前地下上水路を掃除した時に注意された事をレイナは思い出したと言う。

「ユカタは分かっていたの?」

「あの奥に人がいるかって?」

 分かるハズがない。エリザベス様の索敵でも分からなかったのだから。だが居る体で動くとして、30を超える数の敵にどう対応するか。自分達の安全を確保出来る手段はそう多くない。だからこそ、レイナの取った作戦は正解だと伝えた。

「それであん時息詰めろって言ったのか」「俺も聞いてたが忘れちまってたぜ」

 ロシェルは当然として、あの時依頼に参加した全員が忘れていた。冒険者は地下水道やダンジョン、洞窟に行く事が普通の人より断然多く、火魔法は派手で威力もあるが、そんな場所との相性は最悪なのだ。今度こそ肝に銘じようと皆で言葉を掛け合った。

 整備を終え、戦利品を事務所に提出し、魔法鍛錬場で昼食を食べる。終始無言のレイナは心配だが、女子達がフォローしてくれている。きっと大丈夫だろう。

 それから2日経ち、休みが明けてもレイナの表情は優れなかった。予想通り助からなかったのを見聞きしたからだろう。彼等は元クラスメイトであり、あまり目に留まるタイプではなかった。冒険者になる素養は無かったのかも知れない。それでも1クラスの教室は静かに死を悼む雰囲気になっていて、レイナもそれを見て察してしまったのだと思われる。

「ねえレイナ」

「どうかしたの?」

「盗賊の討伐に行こうか」

 昼の時間。挟みパンを食べながら言う僕の言葉にその場にいた全員がえっ?と声を揃えた。

「ユ、ユカタ?ギルド証を持つ学生でも、賊の討伐は許されてはなくてよ?」

「仕事とか報酬じゃなくてさ。人を殺しに行こうって話。いつまでも吹っ切らないでいると、いつか仲間を殺す事になるよ?」

「それは…」「なれど、私達わたくしにはまだ早いのでは?」

「実際に襲われた事もあるのに早い事なんてないと思うよ?ジュン、ちょっと良いかな?」

「うん。何かな?」

 僕は立ち上がると皆から少し離れ、寄って来たジュンを後ろ手に捕まえて喉元に採集用の木のナイフを宛てがった。

「ぐへへぇ。コイツの命が惜しかったら……って場合、どうする?」

「あ~~れ~~…で、良いの?」

「…コイツ、馬鹿にしてんのか、で、グサー。さらばジュン。他には?」

「広がって、死角から行くのはどうよ?」

「手前ぇ等動くんじゃねえっ!で停滞だね。相手の隙を突くのは良いと思うよ」

「アタシの勝ちー」

「ロシェル、それ本物だろ?」

「ナイフ離してジュンを解放しないと血が出るよ?」

 容赦ないなロシェルは。参ったしてジュンを解放した。そしてやっぱり本物だった。血は出てなかった。良かった。

「今度はアタシの番ね」

 そう言うと、僕を正面にして抱き着いた。柔らかい感触に包まれた顔が離れたくないと言っている。さらに腕で顔を圧迫された。

「ほれほれ男共ぉ、羨ましかったら引き剥がしてみれ~。出来た子にはハグしたげるよ~?」

「「「「お、おおおおおっ」」」」

 元デブとマッチョ兄弟が唸りを上げて駆け寄って来るのが背中への圧力で分かる。だがロシェルは後一歩、僕に触れる寸前で身を躱し、スルスルと包囲網を抜け出して背面跳び。僕を抱き締めたまま観覧席から1階に飛び降りた。

「あびじでんばっ!」

「あ~ん、くすぐったいって。アタシの勝ちだからユカタはもらってくね。みんなはそんな時どーするっての、考えとくと良いよ~」

 風を切る感覚がして、皆の声が遠くなる。僕は連れ去られてしまった。それにしても、柔らかいな。知らぬ間に抱き着いていた。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...