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心の、傷
しおりを挟む「多分、ブフリムウォーリアだよね、この魔石。こっちのがウォリスの大型、かな」
ジュンは背嚢から魔石を取り出しロシェルの言葉が真実である事を示す。大ブフリムが2、大ウォリスと思しき魔石が4あった。
「今更だけど、思い出したわ」
以前地下上水路を掃除した時に注意された事をレイナは思い出したと言う。
「ユカタは分かっていたの?」
「あの奥に人がいるかって?」
分かるハズがない。エリザベス様の索敵でも分からなかったのだから。だが居る体で動くとして、30を超える数の敵にどう対応するか。自分達の安全を確保出来る手段はそう多くない。だからこそ、レイナの取った作戦は正解だと伝えた。
「それであん時息詰めろって言ったのか」「俺も聞いてたが忘れちまってたぜ」
ロシェルは当然として、あの時依頼に参加した全員が忘れていた。冒険者は地下水道やダンジョン、洞窟に行く事が普通の人より断然多く、火魔法は派手で威力もあるが、そんな場所との相性は最悪なのだ。今度こそ肝に銘じようと皆で言葉を掛け合った。
整備を終え、戦利品を事務所に提出し、魔法鍛錬場で昼食を食べる。終始無言のレイナは心配だが、女子達がフォローしてくれている。きっと大丈夫だろう。
それから2日経ち、休みが明けてもレイナの表情は優れなかった。予想通り助からなかったのを見聞きしたからだろう。彼等は元クラスメイトであり、あまり目に留まるタイプではなかった。冒険者になる素養は無かったのかも知れない。それでも1クラスの教室は静かに死を悼む雰囲気になっていて、レイナもそれを見て察してしまったのだと思われる。
「ねえレイナ」
「どうかしたの?」
「盗賊の討伐に行こうか」
昼の時間。挟みパンを食べながら言う僕の言葉にその場にいた全員がえっ?と声を揃えた。
「ユ、ユカタ?ギルド証を持つ学生でも、賊の討伐は許されてはなくてよ?」
「仕事とか報酬じゃなくてさ。人を殺しに行こうって話。いつまでも吹っ切らないでいると、いつか仲間を殺す事になるよ?」
「それは…」「なれど、私達にはまだ早いのでは?」
「実際に襲われた事もあるのに早い事なんてないと思うよ?ジュン、ちょっと良いかな?」
「うん。何かな?」
僕は立ち上がると皆から少し離れ、寄って来たジュンを後ろ手に捕まえて喉元に採集用の木のナイフを宛てがった。
「ぐへへぇ。コイツの命が惜しかったら……って場合、どうする?」
「あ~~れ~~…で、良いの?」
「…コイツ、馬鹿にしてんのか、で、グサー。さらばジュン。他には?」
「広がって、死角から行くのはどうよ?」
「手前ぇ等動くんじゃねえっ!で停滞だね。相手の隙を突くのは良いと思うよ」
「アタシの勝ちー」
「ロシェル、それ本物だろ?」
「ナイフ離してジュンを解放しないと血が出るよ?」
容赦ないなロシェルは。参ったしてジュンを解放した。そしてやっぱり本物だった。血は出てなかった。良かった。
「今度はアタシの番ね」
そう言うと、僕を正面にして抱き着いた。柔らかい感触に包まれた顔が離れたくないと言っている。さらに腕で顔を圧迫された。
「ほれほれ男共ぉ、羨ましかったら引き剥がしてみれ~。出来た子にはハグしたげるよ~?」
「「「「お、おおおおおっ」」」」
元デブとマッチョ兄弟が唸りを上げて駆け寄って来るのが背中への圧力で分かる。だがロシェルは後一歩、僕に触れる寸前で身を躱し、スルスルと包囲網を抜け出して背面跳び。僕を抱き締めたまま観覧席から1階に飛び降りた。
「あびじでんばっ!」
「あ~ん、くすぐったいって。アタシの勝ちだからユカタはもらってくね。みんなはそんな時どーするっての、考えとくと良いよ~」
風を切る感覚がして、皆の声が遠くなる。僕は連れ去られてしまった。それにしても、柔らかいな。知らぬ間に抱き着いていた。
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