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迂闊な、一言

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 左右に別れた丁字路に前衛が向かう。僕達の方には元デブのオイシンが壁役となり敵の注目を集める。

「ふっ。ふんっ」

 大声を出すと仲間を呼びかねない。更に後ろでも戦っているので声を出せず、盾と棍棒を振り回して敵を呼ぶ様は少し面白い。そして敵はウォリスだ。人の考え等分かるまい。

「グルルルル…」「ガウッガウッ」

 余計に警戒しちゃったみたいだ。

「ロシェル、撃たせるよ」「あーい」

 広くて明るい坑内で、警戒されてはロシェルも前に出られない。なので伝令を頼む。

「オイシン、頭下げといて」

「おう」

 頭が下がらず盾が上がっているが仕方ない。クリスと左右から威嚇して、敵を1ヶ所に固める。槍はこんな時便利だ。行って欲しい方向に振ってやればそっちに退いてくれる。

「放ちますっ。足元に気を付けて」

バシュッ!

「ペトレス・シンフィプシスッ」

 盾を掲げたオイシンの足元を抜けて、尖った石が飛んで来る。ウォリスに向けて真っ直ぐ飛ぶのはサッと横に飛んで避けられたが、避けた先に飛んで来た石が曲がりながら顔に当たり、前衛達に一撃の隙を作る。

「ンシッ」「フッ!」

「ギャンッ!」

「うぉりゃっ」

 僕とマキで1匹を串刺しに、クリスが1匹を胴体真っ二つにして残りは1匹。僕は槍を離し、中剣を抜いて敵と対峙するが、一足遅かった。

「アタシも1匹ぃ~」

 ウォリスの背に馬乗りに鳴って、ナイフで首を斬るロシェルが居た。きっとクリスかオイシンの後ろにでも隠れていたのだろう。地面に吸収するまでもふもふを楽しむようだ。

「アッチは?」

「兄貴もいるし、もう終わってんだろ」

 弟の言葉の通り、向こうは既に吸収し終えていた。殺り方はこちらと違って魔法だけで終わらせたみたいだ。

「ユカタ~、見て見て~」

「可愛いウォリスだな。飼ってやろうか」

「良かったな、ウォリス~」

「そっちは魔石しか落ちなかったクセにぃ…」

 吸収するまで尻に敷いていたウォリスの皮が残ったらしく、ロシェルは毛皮を被って熊の威嚇みたいなポーズを取って来た。ダンジョンのウォリスは外のよりキレイなのか、汚れが全然無い。しかも職人がやったかのような剥ぎ具合だ。ロシェルが掻っ切った喉の傷も消えていて、外のより高値が付くのが予想出来た。

「ウォリス可愛いよウォリスゥ。オッサン共に盗られる前にしまっちゃおうねー」

「皆様集まってください。どちらに曲がるか決めましょう」

 マキが皆を集める。指示役のレイナが地図を描いてるからだ。

「ユカタはどちら?」

 エリザベス様は僕に意見を乞うが、ダンジョン初体験な僕に聞かれても困る。

「どっちでも、だね。ロシェル。危険な気配はする?」

「んじゃそっち」

 即決か。

「なるほど。ではそうしましょうか。皆、静かに参りませ」

 エリザベス様は索敵魔法がスキルになるくらい使い込んでる人だ。ロシェルが指差した方、そして差さなかった方がどうなのか、分かっているに違いない。

「壁役2人は前へ。ミルコとクリス、ロシェルも続きなさい。ユカタとエヴィナは殿を。マキは後衛の守護へ」

 エリザベス様の指示でフォーメーションを変える。前からの攻防に特化した隊形だ。この先に敵がいるのか?ヤバい奴じゃなければ良いが…。

 心配した割に、進めど進めど敵が出ない。おかしい。

「敵、出ないね」

「ユカタさんも戦いてぇんスね」

「そうじゃ無いけど、敵が出な過ぎじゃない?」

「さっきみたいにさ、誰かが釣っちまったんじゃね?」

「そうなると、この先に敵がうじゃうじゃ居て、誰かが殺られてる?」

「ユカタ、エヴィナ様も。迂闊な事は」

「ん、悪ぃ」「ごめん」

 レイナに注意されてしまった。悪い予想は当たる物。自分達が予想の元にならぬよう、神経を研ぎ澄ませる。

「止まって」「…流石に多いかしら、ね」

「エリザベス様、どうされました?」

 何か、嫌な予感がする。





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