154 / 194
護衛の、仕事
しおりを挟む翌日。タイグ達に付き合って事務室で昨夜の話をした。事務員のコラリーさんもエリザベス様を襲った相手かも知れないと聞かされては真に受ける他は無い。学園長を通して各ギルドと衛兵詰所へ報告を上げるよう進言すると言ってくれた。
タイグ達は医務室で寝ると言うのでその場で別れ、僕は街へ出る。コラリーさんは一緒に行くと言ってくれたが丁重に断った。貴女は報告があるでしょう?
「待っていたわ。さあ行きましょう」
断って正解か。それとも間違っていたか。学園の門前に立つエリザベス様に捕まってしまった。そういや昨日は何するとか言ってなかったな。ササッと手を取られて外に出る。
「ご、護衛。護衛は…」
居た!見た途端隠れたので間違いない。護衛だよな?エリザベス様を見ると問題ありませんわと仰った。問題ありませんのか?よろしくてなのか?
「そう…。兄が恥をかかなければ良いのだけれど」
街を歩きながら昨夜の話をエリザベス様にも伝えておく。エリザベス様は僕の腕に手を回し、にこやかにそう仰った。笑い事ではないのだけど、腕に当たる柔らかい感触に、僕は言葉を返せなかった。
「それで、どこに連れて行くのかしら」
「鍛冶屋さんの工房だよ」
「その後は?」
僕の用件に付き合うのだから私にも見返りを寄越しなさい。と言う事だろう。貴族様のお眼鏡に適うか分からないけどこうなりゃヤケだ。振る舞いますよもう。
「露店街を回って」
「よろしくてよ」
「どこか静かな店で食事にしましょう」
「ふふっ、貴方、女の扱いが上手いわね。本当に平民なのかしら」
「お爺さんのお爺さんから平民ですよ。兵役は出たみたいだけど」
「なら天然なのね。うふふふ…」
僕としてはパレードの日を参考にしただけなのだが、貴族様には笑いのツボにハマったようで、扇子で顔を隠してお笑いになった。人前ではしたないですわよ?
「ここだよ。護衛も1人入れる?」
「すぐに突入出来れば問題無いでしょう。…よしなに」
「はっ」
小さい返事があり、ちゃんと護衛だった事にホッとする。ドアを強めにノックして声を掛けた。
「こんにちはー。クリスエス商会の伝手のユカタだけどー」
「はぁ~い」
この声は獣人お姉さんだ。ドアが開くのでエリザベス様に手を差し伸べて1歩下げさせると、ドアが空いた瞬間僕の手をすり抜けて前に出た。何で!?
「いらっしゃいユカ…」「私はユカタの連れ合いのエリザベス。どうかお見知り置きを」
「は、はあ。私はここの娘でアルアイン…よろしく」
前に立つエリザベス様がどんな顔をしてるのか分からないが、獣人お姉さんことアルアインさんは一瞬顔を強ばらせ、急に笑顔に変わった。胸を張り、大きなモノを突き出すと、エリザベス様もグッと体に力を込めた。
「何やってんの?」
「あ、あらユカタ、いらっしゃい。とにかく中に入ってよ。エリザベスさんも、どうぞ」
「よしなに。さ、ユカタ」
なぜ腕を絡めるのか。そしてなぜドヤ顔なんだ?2人通れる程には幅の無い入口に2人入ろうとすると、柔らかいのが押し付けられて柔らかい。とても柔らかいっ。
「へぇ~。ユカタも男なのね」
「こうでもしないと靡いてくれませんのよ?」
「私もしてみて良いかしら?」「あら」
「ボーッコボコにされたい男はどーこじゃー!?」
「あら」「まあ」「ここには居ないよー」
アルアインさんの柔らかいのが少し触れた所で助け舟?が入る。
「何だ。クリスエス商会の婿か。次は稼いでから来い。欲しいならくれてやる」
欲しいのはレイナの手持ち投石器と自分用の防具だと伝えると、アルアインさんは柔らかい物を思い切り押し当てた。鍛冶屋の親父の振り被ったハンマーが振り下ろされる…事はなかった。僕達の後ろ。ドアの向こうから飛んで来る殺気にエリザベス様までギュッと押し当てていた。貴女の護衛でしょうが。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる