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最後の、夜
しおりを挟むガサツ者共に強請られた物は、串に刺して焼いたパンのような物で、クルクルと回しながら焼かれている。お値段3本30,00ウーラ。パンだろ?高過ぎだよな?けど売り子のおばさんから受け取るとずっしり重く、肉っぽい香りもする。
「ユカタ様、ちょいとお待ちを」
ガサツ者共に1本ずつくれてやり、残った1本目掛けて口を開いた所にメイドの顔が寄って来て、串を掴む手を掴んでパンの塊に食い付いた。動揺して固まってしまった。
「ん…、ふむ……。んく。問題ありやせん」
「それ僕の串でやる事?」
「毒味ですから。あむ」
「お嬢より貴族らしく見えやすので」
ガワだけ見れば貴族の服だし、傍にはドレス姿の女性とメイド。仕方ない…のか?2人に食われて半分になったぞ?
「うめっ、コレうめぇ」「あむっ、はぐっ」
問題無いとのお墨付きで齧りだすガサツ者共。僕も齧る。パンだと思った物は溶いた麦粉で、中の具にみっちりまとわり付いて焼かれていた。具は味付けした茹で肉で柔らかく、溢れる肉汁は皮生地の内側に溜め込まれる。手が汚れなくて良いなコレ。
「確かに、ん、美味しい」
「どう美味しいのよ」
「食指に適うなら私達も頂きましょう。屋敷に届けさせなさい」「「はっ」」
「頼みますね?坊ちゃん」
おばさんには僕がエリザベス様の弟か何かに見えるらしい。貴族様に買ってもらえれば箔が付くし、売上になるからおばさんも必死だ。
「表面の、パンみたいなのが柔らかくて。中のお肉がトロトロ。味も付いてて美味しい」
…伝わっただろうか。一応買うみたいだけど。
買い食いしたり露店を冷やかしたりして午後まで過ごし、はぐれる事無く屋敷に戻った。ちなみに夕食だが、アレは出なかった。お貴族様に出すレベルではなかったのかも知れない。
「明日は早朝より出立致します。ご入浴の支度は出来ておりますので、皆様お早くお休みになられますようお願い致します」
食事が終わり、客間でお茶等飲んでいると、メイドさんが入って来て風呂に入って寝ろと言う。明日から緊張の日々が来る。体調は万全にしなければ。
「僕最後だろうから寝室で待ってるね」
「裸で行けば良いんだな?」
「お風呂からずっと裸?風邪引いても知らないからね」
エヴィナの言葉をスルーして、僕はメイドさんと部屋に向かう。
「夜這いに遭われぬよう、見張りを立てておきましょうか」
「普通は逆だと思うんだけどね」
「浴室が空きましたら私共がお呼びします。服を着て、で申し訳なく存じますが」
「脱いで来たら本当に吸うからね?」
「期待しております」
本気か冗談か分からない人だな。それとも女性は大人になる程赤ちゃんをあやしたくなるモノなのだろうか。村の婆ちゃんも赤ちゃんを抱くとすぐおっぱい飲むかーって言ってたもんな。
明日の支度をして、ベッドに横になる。僕に充てがわれた寝室は元々メイドさん用で、二段ベッドが4つもあるが、ここを使うのは僕だけで、メイドや馭者は母屋の部屋を使ってるそうだ。女子達は母屋の寝室や離れの客室で寝てるみたい。とにかくだ、1人の時間はとてもありがたい。
どれだけ経ったか。トントンとノックがあり、メイドさんが浴室が空いた事を伝えに来た。ちゃんと服着てる。よしよし。
「良かったら…吸いますか?」
「我慢するよ。女の子達、そう言うのに敏感だし」
「お嬢様が傍に置くだけの事はありますね」
「ないない。お金も爵位も家格も無いよ」
メイドさんに連れられて浴室。貴族の風呂の使い方は前で懲りたので1人で入る。入る前に誰か隠れてないかのチェックも欠かさない。
広い浴槽に1人浸かる。今日からしばらく浸かれないので指がふやける程入り貯めして体を擦った。僕も将来、こんな大きいお風呂が欲しい。お風呂を持つに当たり最大の問題は燃料と水、そして排水だ。水魔法の使い手と契約して水の壁を出してもらえば後は鍋に湯を沸かせば良いだけなので問題は無くなる。
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