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それぞれの、見所
しおりを挟む疲れを落としての翌日。すっかり元気を取り戻した僕達は、パレードの行われる大通りへと足を向ける。昨日は馬車の中で見渡す事が出来なかったが、昨日よりも人がいて、はぐれてしまいそうで不安になる。
僕より都会人な3人衆は堂々としたモノで、自前なのか借りたのか分からないオシャレな服を着て、レイナなんてエリザベス様のとお揃いな日傘を差している。
「ユカタァ」
「どうしたね」
「アタシさ。こう言うの、どう楽しんだら良いか、分かんない」
「僕もだよ」「オレも」
護衛の騎士に囲まれて、名も知らぬ貴族の馬車が通るのを見る。僕達にとっては騎士の鎧姿だけが見所だ。剣や鎧に興味が無いロシェルにとって、見所が無いのも頷ける。エヴィナも退屈なのだろう、あっち見たりこっち見たりで落ち着きがない。ちなみにこの2人も他の女子同様オシャレした服を着てる。男用のだが。
「ねえレイナ。今更なんだけど聞いて良い?」
「どうしたの?パレードの見所の事?」
パレードの見所は、このご成婚に誰が参加してるかって所らしい。このパレードに参加した貴族は王子の味方ですよ。って意味があるそうだ。しかし平民の僕等には全く関係ない話である。関係あるとしたら商人くらいだろうと思い、商家のお嬢様であるジュンにも話を振ってみると、馬車に鎧に馬。パレード参加者の身形全てがどこかで買われた物であり、少なからず自分達の商売に関係していると言う。商機はどこかと目を光らせている訳だ。
「素敵な殿方を見付ける場、でもあります」「私供は外での出会いがございません故」
エリザベス様の後ろに控えるメイドさん達は僕とは違った視点で騎士達を見ているようだ。兜を外している騎士は未婚なんだって。初めて知ったよ。
「何度か目が合っちゃったけど、僕素敵な殿方探してないよ?」
「ユカタ君。私は素敵だと、思うよ」
何がだ?たまにジュンは変な事を言う。マイケル様と会ってから、ジュンはよくメモを取るようになった。チラ見しても難しい古代文字で書いてあるのでまるで理解出来ない。
「ねー、アタシお腹空いちゃった」「オレもー」
「お嬢、お客人ももう少しお待ちを。そろそろ見えて来やすから」
腹減り男女による空腹の訴えをメイドが諌める。1日1度のパレードの華、王子と王子妃の馬車が来ると言う。パレード列の奥を見遣ると槍に旗が見える。近衛騎士の鎧姿は僕も見たいぞ。他の観客もそれが見たいのか、女性達の黄色い歓声が増して行くのが分かる。
「近衛騎士ってさ、憧れるよねー」
「ユカタ君が、近衛になったら…ああ……紙が」「ジュン様、お気を確かに」「紙はこちらに」
メイドさんは何で紙なんて用意してんだ?僕の呟きにメモを取る手が止まらなくなったジュンはもう紙にしか目が行ってない。どんな環境でも記録出来ると言うのは一種の才能だな。
「ユカタさん、コレ見たら露店行こーぜ」「アタシも行く」
「良いけど、良いの?一応僕、護衛だよ?」
エヴィナのメイドが言うに、エリザベス様のメイドの他にもお屋敷から護衛が何人か来てるんだって。付かず離れずで見守ってるそうだけど、僕には誰だか分からない。迂闊に路地裏入ったりしなければ平気だとさ。レイナとエリザベス様に告げると、夕方までに戻るよう、くれぐれもエヴィナと離れぬようにと念を押された。はぐれた時点で、僕は生きられないと思う。
「うわぁ~…」
パレードが進み、僕は声を漏らす。近衛騎士の鎧姿を見て、言葉にならなかったのだ。傷一つない無垢の金属は日を浴びて白く輝き、銀製である事を窺わせる。フルプレートの肩を覆うマントは純白に輝き、芦毛の馬体へ流れて混ざり合う。馬の馬装も同じく銀で揃えられ、シャンシャンと奏でる足並みは音楽の様でもあった。
「ユカタァ、目が乙女みたいだよ?」
「すげー。かっけー」
僕には語彙が無い。
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