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止めなければ、腹を突いていた

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 エヴィナはどうか知らないが、ロシェルも殺気のやり取りをしながら夜を過ごしたらしく、朝食を食べながら悔しさを吐露している。

「エヴィナ?貴女の馬車で一体何が起きていたのかしら?」

「メイドと1人で不寝番してただけだぜ?2人でナニしてたかは知らねぇが」

「エヴィナ、寝てたろ?」

「ユカタァ、ちょっとケンカすっか」

「たまにはボコされちゃえ」

 多分だが、エヴィナは寝たな。エヴィナが真面目に起きてたら、エヴィナのメイドが黙ってない。2人共エヴィナ大好きだからな。その2人が口出しして来ない所を見ると、僕の予想は当たってる。

「甘ちゃんの意地、見せてもらおうかな」

「ユカタ、エヴィナもおよしなさい」「ユカタッ」「「ユカタ君っ」」

 互いの同意があるケンカに止める者は無い。居ても耳に入らない。食事を摂り終え馬車の手入れをする間、僕とエヴィナは対峙する。

「得物を持つって事ぁ、殺られるのも考えてんだろうなぁ?」

「死にたくないからそんな事言ってんだろ。良かったな、金属鎧で。上手く受けろよ?」

「この野郎…」

 エヴィナより先に動いたのは僕。脇に抱えた槍を大振りしながら甘ちゃんを押し込んで行く。左右に回りながら避けているが、こんな大振り当たる方がマヌケなのだ。

「んっ!」

「ちいっ」

 真後ろに退いたのを狙い、槍を突き出す。雑魚相手ならコレで刺せるが、エヴィナは甘ちゃんでも戦闘の才がある方だ。上手く右に躱して舌打ちするが、僕の攻撃は止まらない。中剣の鍔を槍の柄に当てながら槍毎突き押し、さらに右へ躱そうとするエヴィナに梃子の原理で振り出される槍が襲う。

「っつぅ…」

 掠めた腹に、血が滲む。僕の首にもじわりとぬるいのが出てる気がする。2人の間にメイドが飛び入り、多分ナイフを当てているのだろう。

「ユカタ様、そろそろお許しを」

 僕は答えずエヴィナをじっと見据える。

「……お、自分の負けです。ユカタさん。舐めた事してすみませんでした」

 地面に頭を擦り付けて土下座するエヴィナを見て、ようやく半歩下がる。ケンカの終わりと見て女子達が駆け付けた。

「ユカタっ」「ユカタ君、血が」

 やっぱり切れてたか。言われるとジワジワ痛むんだよな。

「双方回復してあげなさい」「はっ」

 水魔法のメイドさんが2人に回復魔法と洗浄魔法を使ってくれて傷と汚れが消える。エヴィナの方は服が切れたので着替えのため馬車に連れてかれた。

「ユ、ユカタ君。女の子とケンカするのは…」

「ジュン、それ女盗賊でも同じ事言える?戦争なんて行きたくないけど、女兵士相手に手加減しなきゃダメ?」

「今はお友達、だよ…」

「ジュン、ソレじゃユカタ死んじゃうよ。ユカタが殺られたら、次も誰かが殺られちゃう」

 さっきまでケンカを応援してたロシェルがジュンの口を止める。そろそろジュンも、解った方が良い。兵士に傭兵、冒険者に盗賊。そして暴徒と化した平民。どの場所にも女性がいて、男は戦う相手を選べない事を。

「皆々様、お嬢の支度が整いやした。出発しようと存じやす」

 エヴィナのメイドが水を入れ、皆それぞれの馬車に移動した。僕はまたエヴィナの馬車だ。

「なあユカタさん、オレを娶ってくんねーか?」

「ざけんな馬鹿エヴィナ」

 ロシェルが吠える。

「エヴィナは貴族。しかも現貴族。僕平民。ダメでしょ」「そだそだ」

うちはそう言うのあんま関係ねーし」

「強い奴ならマッチョ兄弟とかいるでしょ」「アタシヤダ」

「あんなんうち行けばゴロゴロいっからさ、見栄えが無ぇよ」「だねー」

「オレが分家になって旦那が娶ってくれればいきなし一代貴族だぜ?領地ねーけど国から金出るぜ?」「金で釣んなー」

「オレ正妻でさ、ロシェルも2人目か妾かにして、さ」

「ロシェルなんか言えよ」

「え、なんか、恥ずかしくなっちゃった」

 僕は突っ込むが、ロシェルは少女になっている。普段柔らかい物を押し付けて来るクセに…。







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