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それでも、勝てない
しおりを挟む煽られてやる気を見せる兄弟に、抜きつ抜かれつしながらどんどんペースを上げて行き、女子の群れを周回遅れにした。けど多分負けるだろうな。アイツ居ないんだもん。振り向いて確認する体力が惜しい。負けるのが分かっていても負けたくないのでとにかく走る。
講師が何やらガナっているが、多分僕達へのモノじゃない。周回遅れにした男達に向けられたモノだろう。僕達3人、互いの息遣いしか聞こえてない。声を出すのも惜しいのだ。
「アタシいっちばーん」
女子を6周、男子を4周周回遅れにして1着が決まった。5周のハンデは埋められなかったか。
「そうかっ!アイツかっ!!」
「女はっ、数入れちゃっ!ダメだろうがっ!!」
「僕等が終わるとっ、ドヤ顔するんだよっ!」
「クッソーーッ!」「うおおおおおっ!」
悔しがる3人がほぼ同着でゴールして、ドヤ顔のロシェルにさらに悔しがらされた。今まで2周のハンデだったのが3周も緩和され、余裕でゴールしてたから余計に悔しい。この悔しさをタイグ君にも味わわせたかったっ。
「ユカタ、お疲れ。筋肉共も頑張ったね」
優しい声と笑顔が憎い。
「「「ウガアアアアッ!」」」
「ちょっと早い程度で騒ぐなっ!まだ終わっとらんぞっオイッ!?」
講師の言葉?ンなモン知らん。僕達は走り出し、金属の棒で杭を叩きまくった。終わった後の早弁が体に染みるぜ…。
「男の中では俺が1番だ。なあ兄弟」
2つ目の授業を終えて昼食。エリザベス様御用達である魔法鍛錬場にてお弁当を広げる。兄弟いる所我等あり、と言って同席したマッチョ兄が朝の着順を主張した。
「俺も兄弟に先着したかんな」
「クリスとは同着だと思うよ?」
「ありゃあ兄貴が頭押さえ付けてたからだ」
「まあまあ。次勝てば良いのよ、兄弟達。ふふっ」
エリザベス様がからかって来るのを愛想笑いで返す。
「しかしよぅ。ロシェル相手はなぁ」
「負けたのは悔しいが、それを言っては男が廃るぞ?」
「そだぞー。アタシ14周走ってっし」
「は?」
ロシェルの奴、気配を消して僕達の後ろに着いていたらしい。だから14周目で声掛けて来たのかっ。
「良し。ロシェルは外そう」
「えー。負け逃げ~?」
「ダメだ」「ああ。勝ち逃げは許されん」
次回からはロシェルにも金属棒を持たせてもらうよう話をする事にした。
それから3ヶ月経った日。朝の連絡の場で次の休みから16日間の長期休暇が男性講師より告げられた。何と時期国王となる第一王子様のご成婚にて、講師の一部が学園を離れるからであると言う。正直僕達には何の関係も無い訳で、休み中どう過ごすか考えを巡らせる。
「ユカタ。貴方ご成婚のお祝いには行かないのかしら」
「僕平民だし、祝う気持ちはあるけど遠出する程の時間は無いでしょ」
講師が去って、筆記用具を取り出すエリザベス様が僕に問う。近場に住む人は王都に行ってパレードを見たりするんだろうけど王都まで馬車を使って片道12日以上は掛かるので考えから外していたのだ。
「私の馬車を使えば6日で着くわ。3日は王都で楽しめるけど、どうかしら?」
聞くとエリザベス様は現貴族様なので行かねばならないらしい。僕は道連れなのだな。
「メイドと3人切りではお話も弾まないのよ。お願い出来て?」
「ユカタ、同行しましょう」
1つ奥からレイナが割り込む。その隣のマキも頷いている。どうやら女子達には話を通しているらしい。
「ロシェル…」
「あンた、たまに決断力無いよねー。抱いて寝てあげっからさ、行こ?」
抱いて寝るのはともかくとして、ロシェルも同行するらしい。断る手立てが無くなって、同行せざるを得なくなった。
この頃になると成人を迎える者も出て来て、ギルドカードを持った学生と一緒に依頼をこなす事も多くなるのだ。まあズルではあるのだが、冒険者が協力者に金銭を支払う事はよくある事なのだ。
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