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安堵と、危惧

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 馬の休憩と補給を短く済ませると、土の壁を残したまま休憩地を後にする。雨が降れば溶けるのと、もしかしたらまだ馬車が居ると勘違いしてくれるかもと言う期待を込めての事だ。

 いつ遭遇するか分からない敵と、存在が分からない罠に寝る事もままならない。それでも横になり、目を閉じて耳で外の様子を伺う。薄く開けられた覗き窓から入る隙間風。馬の足音に車輪が地面を走る音。後は近くから聞こえる寝息、今はそれだけだ。朝までそうであって欲しい。

ガツッ!

 馬車に当たる何かの音に、車内に居る者のほとんどが飛び起きた。

「外、何か?」

「報告します。弩です。当たり所が悪く抜けました」

 馭者さんの風魔法は発動していたが、貫通したらしい。勢いは削がれていたので馬車に当たっても刺さらず落ちたが、人や馬に当たれば相当のダメージになる事は予想できる。

「走り抜けます!」

 馭者さんは魔法が解ける前に抜け出したいようだ。

「援護します」

 メイドさんが前に出て、覗き窓の向こうへと詠唱を始める。

「……クルティーナ・トウ・ネロウ。壁より薄いけど、風魔法と合わさ…これは、消費が、キツい」

「頑張って。町に帰れれば1日くらいお休みをくれるわ」

「帰れ、ればね」

 消費が何だとか言って急にフラフラしだしたメイドさんを支えて座らせる。

「か、体が揺れますので強く抱いてくださいませ」

「こ、こうかな?」

 座った姿勢のメイドさんの肩を後ろから抱き締めた。コレでフラフラしないと思う。

「癒されます…。お腹の下に腕を回してくださいませ」「離れろ馬鹿」「破廉恥でしてよ?」

「……お見苦しい所をお見せしました。私はもう大丈夫ですので、ユカタ様の満足なされた時にでもお離しくださいませ」

 すぐ離したよ。視線が痛いもん。

 水魔法の合わさった風の壁は弩を止め、丸太の柵を押し返す程の威力となった。代わりにメイドさんの魔力は大きく消耗し、もう1人のメイドさんに支えられて何とか座っていられる程度の虫の息となった。

「敵は、離れたようです」

「…確認したわ。感知系の使い手は居なかったようね」

 魔法が切れても追撃が無くなり、馭者さんから外の報告があると、エリザベス様は息を吐く。敵が馬車の中の様子を知る事が出来てたら、粘ってでも押し込む選択を取ったかも知れない。ダウン者2人で大人はメイドと馭者が1人ずつ。残る子供が5人なら、1人を3人で囲んでもお釣りが出る 。

「お嬢様、暫く水が使えません」

「あそこで止まってはソレ所では無かった事でしょう。生きる以上、我慢も経験です」

 丸太の柵のあった場所、完全に敵に囲まれていたそうだ。魔法の維持に魔力を消費するタイプの魔法に同じタイプの魔法を合わせるのは術者の技量次第で相当消耗するそうだ。レイナの火球は維持するタイプの魔法ではないが、目覚めてはいるが起き上がれない程度の消耗をさせられている。コレは魔力操作に無駄な魔力が使われて、維持するタイプの魔法に似た状態になっているからだとエリザベス様は仰る。

「修練致します」

「魔力だけで言えば私よわたくしりあるのですから、期待しておりますわよ?」

 そこそこ大きい火球3つ分でエリザベス様の魔力総量を超えるんだって。で、4発撃ってヘロヘロにならないのはヘタらない分の魔力が使われずに残り続けてるからだそうな。以前言ってたリミッターのスキルが悪さしてるんだな。今回はそれが使われた結果だとレイナは言う。

「村に続く篝火かがりびが見えました」

 馭者さんの声に活力が戻った気がする。

「今夜は村に泊まるしか無さそうね。馬を替えたら駐留させている兵を私のわたくし元へ呼びなさい」

「承りました」

「必ず顔と所属を明らかにさせる事。見知らぬ者の立ち寄りは許しません」

「は。顔の知れた者だけを集めます」

 警戒してるようだ。少しでも休んでおこう。








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