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お風呂に、メイド

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 美味しい物は心を豊かにする。笑顔を取り戻した鉄面皮に僕の心も癒されて、心に油断を生じていた。

「ユカタ君?随分と仲睦まじく見えますが?」

「ちょっと妬けるけど、お幸せにね」

「やっぱり、大きい人が…」

 別邸の客間に至るまで、僕の腕はメイドさんに柔らかく包み込まれていたのだ。迂闊な。

「道、み、道に迷うと大変だって言われて」

「噛む程動揺してますね」「ユカタ君、帰って来てっ」

「皆様、ユカタ様の言い分に偽りはございません。逸れますと貴族街へ立ち入りが出来ません故」

「ならそろそろ離してあげなさいな」

「あら、私とした事が」

 レイナに指摘されてやっと気付いた様子のメイドさんが名残惜しくも離れると、一礼して部屋を出て行った。

「ユカタ君っ」

 ガラ空きのボディに柔らかい体当たりが襲い、僕は捕縛される。僕をハグして来たジュンは、いつもよりだいぶ積極的だ。酒でも飲んだのだろうか、顔も赤い。

「ユカタ君、甘い香りがする…」

「ジュンだって、お花みたいな香りしてるよ?」

「そりゃあ、お風呂を頂いたもん…」

「手土産買おうとお菓子屋さんに行ったからね。多分ソレだろさ」

「すぅ、匂いだけで美味しい…ふぅ~」

「ご相伴に与れたら良いわね」

 しばらくハグされスーハーされていると、客間に知らないメイドさんが入って来て、僕にも風呂に入れと言う。宿で体を拭いたし遠慮したんだけど、なりませんっと射殺す視線を向けられて断れなかった。名残惜しい柔らかさと離れ、見知らぬメイドさんに連行された。

「1人で入れるからっ」

「貴族の家での入浴法、分かりますか?」

 そう言われると二の句が無い。脱衣場には3人のメイドさんが待機してて4対1。僕には勝ち筋も逃げ道も無く、裸に剥かれて浴室へ向かった。早く時間が過ぎて欲しい。

「お前が妹の言っていた平民だな?」

 僕の願いは神様に届かなかった。浴室に入るとどこかから声がする。少し薄暗い浴室は湯気が立ち込め、声の主の所在が分からない。とにかく膝を折る。

「お姿を見付けられぬ無礼をお許しください。自分がユカタにございます」

「冒険者学園に通うクセに真面に挨拶出来るとはな。寄らせよ」

「は。ユカタ様、コチラへ」

 メイドさん達に手を取られて浴室の隅に向かうと、メイドを従え椅子に座る全裸の男性が大きく顎を上げて髪を洗われていた。前を隠さないのは貴族だからか?僕も両手を取られてプラプラだが。

「ユカタ様をお連れしました」

「は、初めてお目に掛かります」

 再び膝を着いて返事を待つ。

「どう取り入った?」

 きっとエリザベス様との出会いを聞きたいのだろう。特に隠す事も無いので、レイナ達に勘定を教えた頃から採集依頼をこなすまでの話をさせてもらった。

「それでジェニュインが届いた訳か。突然兵を貸せと言われて何事かと思ったが、お前が仕向けたのか?」

「進言はさせてもらいましたが、半個小隊が来るとは思ってもいませんでした。おかげ様で自分達も安全に依頼をこなす事が出来ました。改めて感謝いたします」

「私が送った訳では無い。が、心に留めておこう。子供のクセに心付けを持たせるのは生意気だがな」

 心付け?お土産の事か。対面側のメイドさんによると、どうやらまだ知られていない最新作のお菓子もあったそうで、目新しい物を好む貴族としては何よりの心付けだったらしい。店主にお任せで見繕ってもらった物なので、気を使ってくれたのは店主であると返しておいた。

「平民に貸しを作るは些か遺憾だ。後で何か持たせてやる」

「ありがとうございます」

 断れないお礼だ。楽しみに待つしかない。頭を洗われていた多分下の兄様は、湯を浴びると立ち上がり、ぶらぶらと浴室を出て行った。メイドさん達がこの後更に湯に浸かるみたいな事言って追い掛けてったけど、平民といつまでも長居したくはないのだろう。僕もやっと一息つけるよ。

「さ、お立ちを」

 一息、つけなかった。




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