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夜まで、我慢

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 エヴィナが部屋を出てしばし。僕は再びベッドに沈み、放心状態となる。何だったんだアイツは…。

「おはよ、ユカタ」

 気付けば今度はロシェルが添い寝してた。またしても裸だが、もう慣れたぞ…。慣れたぞ。

「…おはよ。朝ごはんの時間だね」

 「ユカタ。アタシ女の子なんだよ?」

「知ってるよ?」

「そんだけ?」

「じゃあ抱き着いて良い?」

「それは…」

「とにかく服着てご飯行こうよ。僕が独り立ち出来るくらいになったら、その時は赤ちゃんごっこしような?」

「え、ユカタっておっぱい吸うの?」

「赤ちゃんの頃は吸ってたと思うけど。吸って欲しかったんじゃなかったのか」

「見せたら喜ぶって、アイツが言ってたから…さ。そか…吸うんだ…」

 アイツってエヴィナの事か。アイツ懲りずに生き延びたみたいだな。すっかり縮んでしまったロシェルを撫でて落ち着かせ、脱いでた上着を着るまで見ないようにして背を向けた。

「…吸われるのはなんか怖いから。コレで」

 後頭部が柔らかい物に包まれる。柔らかい。柔らかい。

「そう言うのを我慢してるって言ってんじゃん…」

「ん。ごめんね」

 謝ってるクセに食堂で皆と合流するまでずっと体をくっ付けてた。反省の色無しである。

「それではお先にご機嫌よう。謝礼は後日、学園にて」

 食事を摂り、身支度を済ませるとエリザベス様と取り巻き達は先に学園に戻ると言って別れた。宿屋の前に馬車が着けられ、ソレに乗って行くようだ。同乗するのはエヴィナだけだが。

 僕達はクリスエス商会に向かい、朝から混み合う店内を割って奥へと通された。

「お爺様。色々手を尽くしてくれてありがとうございました」

「良い良い。無事戻る事が大事だからの。甘い物を用意させたから、荷を降ろしたら客間で食べて行くが良い。確認に立ち会ってもらう故、ユカタには残ってもらうぞ?」

 僕も甘いの食べたかったんだけど、ダメらしい。借りた物を全部出し、借り物リストと照らし合わせている頃には女子達は客間に移動していた。僕の分、残しといてくれないかしら。

「ユカタよ」

「何かな」

「どうだ、我が孫は」

「どうだと言われても、「可愛かろう!?」可愛かろうだけどさ…」

「何か不満が?」

「僕まだ独り立ち出来てないもん」

「…まあ、そうだろうな」

「それに、嫁ぐのが嫌だから学園に逃げてるって聞いたよ?」

「儂もそう、聞いておる」

「なら何で急かすのさ。恋する年頃?になれば自然と誰かにくっ付くと思うよ?相手が僕だと嬉しいけどさ」

「どこぞの馬の骨よりは、見知った顔の方が…な。ユカタよ、ウチで働かんか?学園を終えてからでも良い」

 働き口を紹介してくれるのはとてもありがたい。貴族の衛士に大棚の店員。まだ選べないと言うと会頭さんは目を伏せた。魔道具屋の店員もあったな。

「貴族の衛士と来たか…。ライバルは、強いのぅ…」

 取り敢えず解放されて客間に連れて来られたが、僕の分の甘い物は無かった。悲しい。

「使った武器も手入れに出してもらったし、学園に戻ろう」

 甘い物を諦めて、僕は学園に戻る提案をするが、彼女達はもう少し外の風に当たりたいと言う。店を回りたいだとか町歩きしたいだとか。すっかり気が抜けている。

「僕1人じゃ戻れないんだけどな。それに武器無いから守れないよ」

「アタシナイフあるよ?」

 研ぎに出さないのかよ。もしかして出せないくらい金が無いのか?

「それで4人守れる?マキも短剣整備に出してたよね?」

「はい。ですが命に変えましても」

「レイナがそれを許すなら、それでも良いけどさ」

「そうね。許さないわね。なら次の休みはどう?」

「僕補習あるけど」

「なら午後から!ねえユーカター」

 みんなも譲歩したし、僕も折れるしか無い。次の休みの予定を決められて学園に戻ると、学園でも問題が発生した。お弁当が無かったのだ。




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