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風呂には、居なかった
しおりを挟む天下の往来で一悶着あったものの、僕達は無事、町の宿屋に泊まる事が出来た。
無事じゃない。完全に門限過ぎて締め出された。
「タダ飯と寝床に、風呂まで入れてありがたいぜ」「だなー」
ガサツ者と人ならざる者は呑気なモノだ。一風呂浴びて食堂に集まり、食事をしながらすっかり打ち解けている。
「過ぎてしまった物は受け入れましょう」
「悪い事をしていた訳じゃないものね」
「お爺様に、お願いしちゃいますっ」
3人衆も吹っ切れたようで薄めた果実酒なんて飲んでいる。意外とワルだなこの3人。僕は約束もあるのでもっぱら水だ。
「当家からも口添えしましょう。私の我儘から生じた事なのですから」
「ああ、エリザベス様ぁ」「真女神尊い」「輝いてお見えですう」
隣の円卓からも援護が来ると言う。何とも強い後ろ盾だ。ちなみに今夜の宿屋はクリスエス商会が用意して、食事代はエリザベス様が奢ってくれている。奢りだからって酒飲んだり肉何枚も食べるのはどうかと思うぞ?僕達より取り巻きの後衛達の方が行儀が良いくらいだ。
寝る。寝たい。寝れない。寝かせろ。
「僕寝たいんだけど」
「寝りゃ良いじゃん」「添い寝したげるよー?」
男の一人部屋は狭い。ベッド1つとテーブルと椅子しかない部屋に、ロシェルとエヴィナ、酔っ払い3人衆が詰まってる。ジュンなんてほとんど夢の中だ。女子用の大部屋で寝なさいよ。
「僕にどうして欲しいのさ。チューする?おっぱい揉む?明日は商会に荷物返しに行くんだからさあ。もう寝ようよぉ」
「アハ、ユカタ本気で疲れてるね」
1人ベッドの端に横になり、もう目が開けられない状態なんだ。
「ユカタの言も一理あるわね」
理しか無いよ…。多分レイナだろう。僕の手を取って柔らかい物に当てている。…コレは、頬っぺたか。
「ジュンさんが限界です。そろそろ部屋に戻りましょう」
今度はマキか。レイナ?から手を取って多分頬っぺに当てている。
「まだ引退出来ないもんね」
よく分からない事を言うのはロシェルだな。頬っぺにチューされた。柔らかい。
「んじゃ、お休み」
残ったのはエヴィナだろう。返事が出来なくてごめん…。そこから朝までの記憶が無い。
朝。隣にガサツなエヴィナの顔がある。何故だ?コイツも部屋に行って寝たんじゃ無いのか?
「ん…」
「起きろバカ」
「朝っぱらから、元気なモンだぜ…」
「触んな殺すぞ?離れろよ」
「おお怖い怖い」
掛布団毎身を起こしたエヴィナは薄暗い部屋の中でも分かる程、裸だった。クリスエス商会が取ってくれた宿屋だし、シロムシやチクチクはいないだろう。だからって裸で寝るのはどうなんだ?
「みんなより薄っぺらくて悪かったな」
確かに胸板は薄いが僕だって人の事言えた義理じゃない。
「俺だって今年の終わりにはマッチョになるんだ。それよりお前、男同士で寝るのはともかく裸は止めろよ。俺女の方が好きなんだよ」
「オレ、女だぜ?」
口が開き、目が点になる。胸に付いてる点々を凝視してしまった。ホクロだ。
「イキった鼻っ柱ぁ折ってくれた礼だよ。男はさ、好きなんだろ?」
「好きだけど、我慢してんだ」
「オレはパーティーメンバーじゃねえし、良いんだぜ?」
「それバレる自信しか無いよ。冒険者出来なくなっちまう」
「ヘッ、そしたら家の衛士に取り立ててやるよオレ直属でな」
「おっお前貴族かよっ」
女だった事より驚いた。冒険者を目指してる理由は容易に想像出来るが、それでもこんなガサツな貴族見た事無い。町のチンピラの子供くらいにしか思って無かったのだ。よくよく考えれば金貨2枚も払って子供を学ばせるチンピラもいない訳だが。
「赤ちゃんごっこ、するかい?」
「お止めなさいっ」
突然、突風のような声が響く。エヴィナにも聞こえているようで顔を歪ませた。部屋には僕とガサツ女しか居ない。エリザベス様の風魔法で呼び出され、エヴィナは部屋を出て行った。生きて帰れよ?
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