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生きた、心地

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 途中途中でロシェルが木に登り、方向を修正しながら目的地付近に到着すると、後はアタシがと木を伝って枝を切って来た。注意したのでちゃんと持って来たな、よしよし。

「間違い無くジェニュインですね」

「ええ。たった2度の遠征で手に入れられるとは」

 レイナの言葉にエリザベス様から喜びが溢れてる。皆もホッとした顔してる。成果無く帰る事の辛さは前回味わったが、出来れば何度も味わいたくないのだ。

 人ならざる運動能力を持つロシェルが居なければもっと過酷な事になっていただろう。借り物の上質なロープが大活躍したに違いない。そんなロシェルは意外と落ち着いて次の指示を仰いだ。

「まだ生えてるけど、採る?」

「では、先端に蕾が多い物を幾つか頂けるかしら」

「あーい」

 ガサツ者に蕾と言って分かるかどうか不明だが、エリザベス様が満足するまで登り降りしてればその内集まるだろう。が、時間的余裕は無いので忠告しておく。

「ツボミくらいわかるよ!」

 ロシェルも女の子なんだな。事実、ちゃんと蕾のある物を採って来た。

「さあ、急いで帰らねばなりません。少なくともここに居ては夜を明かす事も難儀するでしょう」

 入手した花をジュンの背嚢に収納し、エリザベス様は指示役として次の行動を示す。今回もだが、野営用の装備は持って来ていない。その上町の近くなのに何故か魔物が多いこの森の中で野宿するなんてまっぴらごめんだ。密集して出来るだけ来た道を戻る。隊列を下げるのが手間だとして前を行く兵隊さん達が、ガシャンガシャンと剣を鳴らして進んでく。敵を寄せる行為であり、敵を遠ざける行為でもある。すっかり暗くなった山道ではとてもよく響いた。

「ユカタ、近くないけどいるよ」

「遠巻きに警戒しているようで」

 ロシェルにエリザベス様が敵の存在に気付くと、隊長さんはスッチャンスッチャンと剣を鞘から抜き差しした。何かの合図っぽい。

「後ろの僕達に狙いが来ないようにしなきゃね」

「目は慣れたが流石にここじゃあ殺れねーな」

 前を隊長さん、左右3人ずつに挟まれる形で歩いてく。もっと強くならないとこんな無理は出来ないと感じた。学園に入らず、14歳で冒険者になっていたら、僕は生き延びられただろうか。

 数による牽制は功を奏し、会敵する事無く街道に戻る事が出来た。僕を含めて学生達は皆声も無く、街道に入ったにも関わらず警戒の視線を外に向けていた。それくらい、怖かったのだ。

 最終的に、何匹の敵に囲まれていたのかは分からない。エリザベス様が、数えたら挫けてしまうと言って思考を止めてしまったからだ。数が分かってどうなるでもなし、仕方ないよな。

「お嬢様、町に到着致しました。お嬢様」

「えっ、あ、ご、ご苦労様」

 町に着いた事にすら気付いて無かったのか、エリザベス様は驚いて声を発した。それを聞いて皆も周りが見えて来る。

「何で門が開いてんの?」「本当、空いてる…」

「報告します!」

「報告受ける」

「報告します。負傷者含め5名合流しましたっ」

「門を開けてまで合流するのは感心せんが、開けてしまったのなら入らせてもらおうか。お前達は各班に合流せよ」

 たまたま外に出ようとしたタイミングで帰って来れたらしいね。普通なら門前で1泊する所だよ。…エリザベス様には頭が上がらなくなったな。

「ユカタァ~、着いたよお~」

 町に入って、ロシェルの緊張が爆発した。僕の背嚢越しにのしかかるように抱き着いて来るのを僕は踏ん張って耐える。

「ジューーンッ!戻ったかあああっ!」「キャーッ」

 町に入ったのを見て、おじいさんの緊張も暴発したようだ。ジュンに抱き着いてウォンウォン泣き出してる。商会の職員達が慌てて引き剥がそうとするが、離れないだろうな。

「ユカタ、皆にも大変お世話になりました。心より礼を申します」

 貴族様が公衆の面前で下々に対し、深く頭を下げた。







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