剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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アイツ、ヤベぇ

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 エリザベス様のお叱りを受けたエヴィナはすっかりしおらしく…はなっていなかった。暗に村焼くぞって言われたの、気付いてないのかな?ブツクサ漏らしながら前衛に混ざり、マキは温存として殿に下がった。

「警戒しろよ。仕事だぞ?」

「っせーよ…ヒッ!」

「集中が散る。黙れや」

 ロシェルが怖い声で囁いて、ナイフを首に当てる。後ろからは肩でも組んでいるように見えるだろう。

「ロシェル、干し肉お食べ。お前にもやるから集中しろ」

「あ…ああ…」

 ロシェルは僕の背嚢をガサガサして干し肉を引っこ抜くと、さっきブフリムを斬ったナイフで細切りにして齧り付く。僕とエヴィナにも1つずつくれた。食べにくいが、齧り付く。おかげで前衛は静かになった。

「ユカタ、前来たトコだよ」

「運が良かったな」

「敵と殺れっから来たのに…」

「食う出す寝る時はいない方が良い。だろ?」

「う…」

 僕はどれも経験あるけど、コイツはどうだろう。何となく察してくれたみたいで言葉を噤んだ。

「エリザベス様、ここで昼食にしたいと思います」

「良しなに。ジュンとマキ以外は周囲の警戒が済み次第お昼になさい」

 干し肉齧ったロシェルの腹時計は曖昧だが、日の傾きで昼前に目的地に着けたのが予想出来る。ジュンとマキが食事番として崖下の広い場所で店を開く間、残りの面々は崖の上や前後を見回る。特に上には注意を払う。普段動かない物が落ちて来るかも知れないからだ。

「ユカタ、あの木は違うかしら?」

「遠いね。一応資料は見たけど、近付かなきゃ分かんないかな」

「アタシ登ってみる?」

「石が落ちたらジュン達が危ないよ。ご飯食べてからにしよ?」

「あーい」

 谷間の先を見て来たエリザベス様と隊長と取り巻き達が戻り、パーティー揃って昼食を摂る。今回は一人一人に箱入りの弁当と蓋の付いたお椀のスープ。ソーサーと呼ばれる薄焼きパンが3枚入ったカゴが手渡された。何と兵隊達の食事も同じ物。それでクリスエス商会が来てたのか。

「お、男の人の量に合わせたって、言ってたから。ちょっと、多いかも」

「全然っんまっんまっ」

「温ったけぇ…外でこんなの食えるなんて…はぐっ」

 濃いめの味がとても良い。ちぎったソーサーでお椀に残ったスープと弁当箱の肉汁を拭って食べる。

「はしたなくてはなくて?」

「汚れ物を出さないためです」

「村には村の仕来り、ね」

 エリザベス様も倣うようで、小さくちぎったソーサーをお椀に滑らせ食べた。

「見て、指が汚れてしまったわ。我が家の食卓では出せませんわね」

 取り巻きがアワアワしながらキレイなタオルでおてて拭いてた。ちなみにロシェルはぺろぺろするので事前に辞めてもらっている。借り物の食器だからね。口の悪いエヴィナは隠れて指ぺろぺろしてた。気持ちは分かる。気付かれないように指毎食べるのがコツなんだよ。

 食事と休憩を終えて、ロシェルに崖登りしてもらう。荷物を下ろし、ロープを斜に掛けてヒョイヒョイと簡単そうに登って行くが、あんな事出来るのはアイツくらいだ。普通は少し上がる毎に鋲を打ち、ロープを掛けながら登るもんだぞ?20m近く登って崖にへばり付いた木に取り付くと、ナイフで枝を払って落っことす。

「下ろすよー」

 落としてから言うな。離れてたので慌てて受けに行く。ガサツ者め。更に2ヶ所でガサツな事をして、木にロープで何かやってると思ったら、体にロープ巻いて走って来た!ロープと木に信頼置き過ぎだろ!ズルズル降りて来るなら分かるけど、地面見て走り降りて来るなんて、どう言う神経してんだアイツは。

「人ならざる動き、でしたね」

「なんて奴だ…」

「ま、真似出来ない、かな」

「見てるだけで怖くなるわね」「ですね」

 みんな僕と似たような感想を抱いているようだ。

「隊長、やれて?」

「は。我等の装備では無理に御座います。崖を崩し兼ねません」

 そりゃそうだろ。





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