上 下
87 / 194

アイツ、ヤベぇ

しおりを挟む


 エリザベス様のお叱りを受けたエヴィナはすっかりしおらしく…はなっていなかった。暗に村焼くぞって言われたの、気付いてないのかな?ブツクサ漏らしながら前衛に混ざり、マキは温存として殿に下がった。

「警戒しろよ。仕事だぞ?」

「っせーよ…ヒッ!」

「集中が散る。黙れや」

 ロシェルが怖い声で囁いて、ナイフを首に当てる。後ろからは肩でも組んでいるように見えるだろう。

「ロシェル、干し肉お食べ。お前にもやるから集中しろ」

「あ…ああ…」

 ロシェルは僕の背嚢をガサガサして干し肉を引っこ抜くと、さっきブフリムを斬ったナイフで細切りにして齧り付く。僕とエヴィナにも1つずつくれた。食べにくいが、齧り付く。おかげで前衛は静かになった。

「ユカタ、前来たトコだよ」

「運が良かったな」

「敵と殺れっから来たのに…」

「食う出す寝る時はいない方が良い。だろ?」

「う…」

 僕はどれも経験あるけど、コイツはどうだろう。何となく察してくれたみたいで言葉を噤んだ。

「エリザベス様、ここで昼食にしたいと思います」

「良しなに。ジュンとマキ以外は周囲の警戒が済み次第お昼になさい」

 干し肉齧ったロシェルの腹時計は曖昧だが、日の傾きで昼前に目的地に着けたのが予想出来る。ジュンとマキが食事番として崖下の広い場所で店を開く間、残りの面々は崖の上や前後を見回る。特に上には注意を払う。普段動かない物が落ちて来るかも知れないからだ。

「ユカタ、あの木は違うかしら?」

「遠いね。一応資料は見たけど、近付かなきゃ分かんないかな」

「アタシ登ってみる?」

「石が落ちたらジュン達が危ないよ。ご飯食べてからにしよ?」

「あーい」

 谷間の先を見て来たエリザベス様と隊長と取り巻き達が戻り、パーティー揃って昼食を摂る。今回は一人一人に箱入りの弁当と蓋の付いたお椀のスープ。ソーサーと呼ばれる薄焼きパンが3枚入ったカゴが手渡された。何と兵隊達の食事も同じ物。それでクリスエス商会が来てたのか。

「お、男の人の量に合わせたって、言ってたから。ちょっと、多いかも」

「全然っんまっんまっ」

「温ったけぇ…外でこんなの食えるなんて…はぐっ」

 濃いめの味がとても良い。ちぎったソーサーでお椀に残ったスープと弁当箱の肉汁を拭って食べる。

「はしたなくてはなくて?」

「汚れ物を出さないためです」

「村には村の仕来り、ね」

 エリザベス様も倣うようで、小さくちぎったソーサーをお椀に滑らせ食べた。

「見て、指が汚れてしまったわ。我が家の食卓では出せませんわね」

 取り巻きがアワアワしながらキレイなタオルでおてて拭いてた。ちなみにロシェルはぺろぺろするので事前に辞めてもらっている。借り物の食器だからね。口の悪いエヴィナは隠れて指ぺろぺろしてた。気持ちは分かる。気付かれないように指毎食べるのがコツなんだよ。

 食事と休憩を終えて、ロシェルに崖登りしてもらう。荷物を下ろし、ロープを斜に掛けてヒョイヒョイと簡単そうに登って行くが、あんな事出来るのはアイツくらいだ。普通は少し上がる毎に鋲を打ち、ロープを掛けながら登るもんだぞ?20m近く登って崖にへばり付いた木に取り付くと、ナイフで枝を払って落っことす。

「下ろすよー」

 落としてから言うな。離れてたので慌てて受けに行く。ガサツ者め。更に2ヶ所でガサツな事をして、木にロープで何かやってると思ったら、体にロープ巻いて走って来た!ロープと木に信頼置き過ぎだろ!ズルズル降りて来るなら分かるけど、地面見て走り降りて来るなんて、どう言う神経してんだアイツは。

「人ならざる動き、でしたね」

「なんて奴だ…」

「ま、真似出来ない、かな」

「見てるだけで怖くなるわね」「ですね」

 みんな僕と似たような感想を抱いているようだ。

「隊長、やれて?」

「は。我等の装備では無理に御座います。崖を崩し兼ねません」

 そりゃそうだろ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...