86 / 244
静かに、怒る
しおりを挟む日を跨ぎ、再びお花摘みの日となった。今日の門前はエリザベス家の半個小隊と隊長、補佐の52人の他に、クリスエス商会からも見送りの人達が来ている。
「ジュンよ、おお。怪我だけはしてくれるなよ!?」
会頭のおじいさんが頬擦りする勢いでジュンに絡んでる。
「誰あれ」「ジュンのおじいさん。お昼ご飯くれる人だよ」
ロシェルは引き気味に聞いて来るので警戒を解いとこう。
「ユカタ、準備はよろしくて?」
「大丈夫です。今日は指示役お願いします」
「お任せなさい。では皆、怪我無きよう。出立っ」
ガシャン!ガシャン!
兵隊達が剣を叩いて返事をするが、兵隊達に言ったんじゃないからな?
僕とロシェルとマキが前、その後ろにレイナとエリザベス様とジュン。殿に取り巻き4人が横並びとなって進んでく。新顔の取り巻きは丸盾に棍棒のパワータイプで初めて見る顔だ。殿の後ろに52人もの兵隊がいるので安全な場所ではあるが、初めての参加だし流れを見てもらうのと温存戦力と言う事で後ろに着いてもらった。
「なあ、敵出ねーの?オレ腹減っちゃったよ」
「アタシもー」
後ろから聞こえて来る新顔のボヤキに、隣からも同意の声が上がる。
「今日は運が良いな。敵は出ないに限るよ」
食い物の話をスルーして、どんどん谷間を進んで行った。やはり前回は運が悪かったのだろう。前回昼食を食べた平みまで一度も会敵しなかった。
「ユカタ、居るよ」
「数は8、少し多いですわね」
エリザベス様は感知系のスキルでも持っているのだろうか?僕より後ろなのによく分かるな。
「へへっ、1人2匹だな?」「あっ、お待ちなさいっ」
指示役の声を無視して後ろから新顔が抜け駆けし、前衛の間を割って飛び出した。
「ユカタ、どーする?」
「囲ませて更に囲もう。エリザベス様、どうですか?」
「そうですね、勝手は許されません。私も出ます。レイナ嬢は指示を」
「承りました。前衛は正面から、後衛は左へ回り込みながら叩きます。お互い射線に気を付けて」
皆歩く速度を早めて新顔を追う。平みの上では既に戦闘が始まっていた。案の定囲まれてやがる。不意討ちは成功しているようだがせめて背後に木を背負え。
「風の精霊よ…」「土の精霊よ…」
後衛達の詠唱が始まった。敵を散らさないよう動かねばならない。ロシェルは手馴れた様子で背を向けるブフリムにナイフを突き刺し息の根を止める。続く僕が槍で突く。殺れてはないが、動けなくはした。マキは後衛の位置を見ながら牽制に回るようだ。
「ユカタ!魔法撃ちます!放てっ!」
風と土の魔法が僕の横を抜けて敵に放たれると、新顔は驚いた様子で体勢を低くし盾を構えた。だがその隙を見逃さなかった1匹に背中を叩かれる。木の棒でなければ死んでいるだろう。
魔法の斉射が敵を撃つ。後衛に近かった3匹は倒れ、1匹が負傷。健在な残り2匹にロシェルと僕が迫って倒した。
「マキ、トドメ刺してっ」
「承知しましたっ」
倒れてても生きてる可能性があるのでマキに声を掛け、前衛3人で頭を潰したり首を斬ってトドメを刺す。まだマキは慣れてないようで、短剣を突き刺して息を荒くしていた。
「エリザベス様、剥ぎ取ります」
「良しなに」
袋の中身を回収し、新顔と合流する。
「なっ、何で撃ったんだよ!?」
「敵を倒すためだよ。お前は指示も聞かないで何やってんだ?」
「オレだって、敵を殺ってたんだ!」
「1人で殺り切れないクセに生言うな。みんな怪我無くで終わらせるんだから慎重にやれよ」
「ユカタ、そこまででよろしいでしょう」
指示役のエリザベス様が言うのであれば下がる他ない。僕は臭くなった槍をボロ布で拭うため、同じくしてるロシェルに寄って行く。
「エヴィナ。私に恥をかかせぬように。其方の無粋な行動でパーティーを危険に晒したならば…お分かりね?」
「…はい…分かり、ました」
エリザベス様、怒ってるな。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる