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意外と、多い

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 日は過ぎて休日。僕は町の門前にて物々しい装備の兵士の集団の中に居た。10人が1つの班となり、それが5つ。そしてそれを束ねる代表と補佐役が1人ずつの計52人。半個小隊と言われる集団で、エリザベス様が家に頼んで用意させた私兵の一部であるそうな。

「ささ、ユカタ。出立の合図を」

「僕軍属じゃ無いからそんな事出来ないよ。まあ気を付けて行こう」

「ええ、怪我無きよう」「行こ行こー」

 エリザベス様の声に応えると、エリザベス様とロシェルが揃って歩き出す。それに釣られて学生の残りが歩き始めると、すぐに後を52人の兵隊が移動を開始した。

「ユカタ~、そろそろ畑だよ~?」

「脇道から山に入るから前に出過ぎないでね。レイナは隊長さんに伝えて」

「分かったわ。ジュン」「承知しました」

 すぐ後ろに隊長と補佐が居るので聞こえてると思うけど、僕が直接話をする事は無い。レイナに指示を伝えると、ジュンが動いて補佐に伝え、補佐が隊長の許可を得て各班に指示を伝えた。

「3班は殿へ。1列で進め」

ガシャン!ガシャン!

 50人が左手で腰に差した剣を叩く音は凄く大きく聞こえる。コレが返事だったらしく、脇道を1列になって付いて来た。

 山に入り、斜面を迂回しながら谷間を進む。町が近く、住民が薪や落ち葉を集めてるので歩きやすい。踏み固められて下草も疎らだ。

「道、みたい…」

「道だよ。谷間に落ちて来る枝葉を集めてる人がいるんだ。足元滑るから下も見てね」

「ユカタ!ブフリムいたっ!」「数は3ですわ」

「前衛は前へ。後衛は火を使わないように」

 町の近くとは言え居る所には居る。けど運が無いな。斜面を滑るように降りて来る3匹のブフリムは、谷間の下まで降り切るとコチラに向かって走り寄る。どれも木の棒を持ってギャーギャー喚いてやがる。

 前衛の僕を挟むようにロシェルとマキが並び、射線を外すよう左右へ広がるように後衛のジュンと取り巻き達が2人ずつ並ぶ。火魔法を禁じられたレイナとエリザベス様を中心にした布陣だ。

 僕は槍を構えて飛び込んで来るブフリムの胸を突き刺す。痛みで硬直したブフリムは押し込まれて仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。マキは攻撃を捌くのに必死で殺れてないが、まだ敵を殺した事が無いのであれば仕方ない。ロシェルが背後から首を斬り付け、戦闘は終わった。

「へ~。ユカタって躊躇無いね」

「そりゃあ10になる前から殺るの見てるもん。袋の中身だけ取って行こう」

 ロシェルだって躊躇無いだろうに。ロシェルは魔石も取るかと聞いて来たが、武器が汚れるし臭いので止めておこうと伝えると彼女も納得していた。

「あ、あの、埋めたりしないんですか…?」

 ジュンの言葉は正しいが、敢えて僕は否定した。肉食が寄って来たりアンデッドになったりするから本来は焼いたり埋めたりした方が良い。だがその時間は無い。袋の中の小銭を空袋に移して移動を再開する。

 面倒な事にブフリムが出る。ロシェルの腹時計が限界を迎えるまでの間に更に3回遭遇し、無駄な時間を過ごす羽目に遭う。袋の中身は重くなったが目的が果たせてないのでイライラしてしまった。

「ユカタァ、ご飯食べよ?」

「ふぅ…。せめて崖の下までは行きたかったな」

「ユカタ、この先少しなだらかになっていますわ。どうされます?」

 僕からは斜面の先が見えないが、この先にひらみがあるとエリザベス様は言う。ロシェルはグーグー鳴らしているし、みんなも少し疲れが見える。食事と休憩は必要なので、そこまで頑張ろうって事で歩を進めた。

 着いたひらみは61人もの男女が入るには狭かったが、上り側斜面に兵隊さん達がはみ出して僕達の場所を空けてくれた。

「では、出しますので取りに来てくださいっ」

 ジュンの背嚢から絶対入らないであろう大きさの寸胴が出て来た。それもマジックバッグか。






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