67 / 147
経験は、糧
しおりを挟む昼の鐘が鳴り、湖の畔で講師からの説明を受けながら薬草の加工をして、そのまま昼食となる。昼前に聞かされた通り、加工自体は簡単な物で、僕のした加工で合っていたが、冒険者はガサツ者が多いからか、雑草や毒草を摘んで来てダメ出しされる者もいたし、せっかくの薬草をダメにしてしまう者も多かった。
「ユカタァァァ」
「水の中で揺する程度で良いんじゃないかな?」
ガサツ者のロシェルは薄く脆い薬草を採集品に選んでしまったようで、ボロボロになった葉っぱを掌に広げて情けない声を出す。同じ物を採って来たジュンは丁寧な仕事をしていたが、洗う前より価値は下がってしまったようで、どうしたら直せるか悩んでいるのだろう。湖畔にしゃがみ込んで唸っていた。
2人が難儀しているウスバカスミは僕も初めて見る薬草だったが、そもそも予洗いしない方が良いのでは無いか?そう思える程に水の中でよく溶けた。失敗は糧だ。僕も気を付けようと思う。
「依頼通り出来たのは7人ですね。依頼通りに採集出来なかった人、採集品をダメにしてしまった人は資料を読んで学んでください。採集品の価値が低かった人や楽な物を選んだ人も、費用対効果を考えましょうね」
講師はそう言うと生徒から提出された採集品を持って学舎へ帰ってく。依頼達成者の7人は、僕と気になる2人にレイナマキペアの5人。そして盗賊の2人であった。奴等講師が居る前ではビクビクしていたが、講師が見えなくなると途端に横柄な態度に出た。
「へっ、どうなるかと思ったぜ…」「な?大した事無かったろ。ひひっ」
被害者が目の前に居ると言うのに大したモノだ。採集中に奪われた者に、洗ってる最中に集られた者に睨まれてもケロリとしてやがる。まあ、結局の所、何をしても依頼を達成しなければ金にならないのは事実ではある。方法さえ間違えていなければ、だが。
「みんな、お昼食べよーよ」
ロシェルは湖畔で食べたいようだが、僕は教室に戻って食べる提案を出す。盗賊の近くで店を広げるバカは居ないよね?って話を聞こえよがしに説明すると、皆納得してくれた。
「皆さん付いて来ましたね」
「それはそうでしょ。賢者良きを倣うと言うし」
僕達以外の生徒も演習場を離れるみたいでゾロゾロと付いて来る。皆口々にあの2人の愚痴を零していた。講師に報告、なんて声も聞こえて来る。何事も報告は大事だね。
昼食を摂って午後。地獄の勘定で精神をすり減らした後は武器取り扱いの授業で弓の手入れ。放課後に木の武器を持ったロシェル達に襲われて、何度か殺されたり殺したりして寮に戻る。…何だろう?食堂に入ると大人が多い。10人程の職員が集まって何かを取り囲んでいるようだった。混んでたし、特に興味も無かったので、肉を諦め先に湯の雨を浴びに行った。案の定、肉は無かった。代わりに焼き野菜が山盛りにされたよ。
それから3日経ち、その日最後の授業である読み書きが終わると、事務員のコラリーさんが僕を訪ねて来た。ついに僕の部屋割りが決まったらしい。倉庫暮らしが気に入ってたので変えないようにお願いしてみたけど苦笑いで返されてしまった。
「カサカサ対策はしたの?」
「してないですよ。効果は抜群らしいですが倒れてしまいます」
部屋の場所を書いた見取り図と鍵を渡されて教室を出る。
「…何で付いて来るの?」
「気付かれたかー」
気付かなかったらしれっと部屋に入り込むつもりだったのか?ロシェルの後ろに3人衆も隠れてる。
「明日は勘定するから、寮に戻って早く寝ちゃいなさい」
「えー、つまんないよー。レイナが魔法撃つからさ、一緒に見よーよー」
それは見たい。凄く見たい。見たいけど、部屋に先住してるであろうカサカサを追い出したい使命感が勝った。
「レイナ、明日見せて欲しいな~」
午後に見せてくれるって!
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
自称悪役令息と私の事件簿〜小説の世界とかどうでもいいから、巻き添えで投獄とか勘弁して!〜
茅@ダイアナマイト〜②好評配信中
恋愛
「原作にない行動……さては貴様も“転生者”だな!」
「違います」
「じゃあ“死に戻り”か!」
ワケあって双子の弟のふりをして、騎士科に入学したミシェル。
男装した女の子。
全寮制の男子校。
ルームメイトは見目麗しいが評判最悪の公爵子息。
なにも起こらないはずがなく……?
「俺の前世はラノベ作家で、この世界は生前書いた小説なんだ。いいか、間もなくこの学院で事件が起こる。俺達でそれを防ぐんだ。ちなみに犯人は俺だ」
「はあ!?」
自称・前世の記憶持ちのルーカスに振り回されたり、助けられたりなミシェルの学院生活。
そして無情にも起きてしまう殺人事件。
「未然に防ごうとあれこれ動いたことが仇になったな。まさか容疑者になってしまうとは。これが“強制力”というものか。ああ、強制力というのは――」
「ちょっと黙ってくれませんか」
甘酸っぱさゼロのボーイ・ミーツ・ガールここに開幕!
※小説家になろう、カクヨムに投稿した作品の加筆修正版です。
小説家になろう推理日間1位、週間2位、月間3位、四半期3位
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
婚活と経済~婚活アプリで年収400万以上の男性は狙っちゃダメ!?相談所の男性の年収のボーダーラインは350万!?~
天野桃子
経済・企業
元仲人が婚活をお金の面からガチで語ってみる。ある仲人は「婚活アプリで年収400万以上の男は狙うな。詐称が多い」と言う。また、ある結婚相談所の経営者は「相談所は男性の年収350万がボーダー。収入が低いと女性に相手にされない」と言う。なんとも金にシビアすぎる婚活の世界!!婚活をお金で見ていくエッセー集。現実的すぎて毒舌要注意ですm(__)m
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~
日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。
そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。
優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。
しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる