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悪い、笑顔
しおりを挟む「私も頂いたが、その日の内に父に取り上げられてしまったよ」
「仕方ありませんよ。子供が持つには高価過ぎましたし」
試作品で容量が少ないと言うジュンのマジックバッグには、使用者制限と追尾の付与が掛けられていると言う。同じ仕様だったと言うレイナのヤツも、使用者制限が家族と使用人だった為、父親に取られてしまったそうな。そう言う付与が付けられているからこそ、馬車が買える値段なんだってさ。
食後の眠くなる時間に勘定の授業があるのは苦痛以外何物でもない。何事も卒無くこなすマキですら、凄い顔してアクビを耐えていた。
今日の授業は暗算。いくつかの数字を足して合計を出す。いくつかの数字をいくつかの数字で分けたり掛け合わせたり。単調な作業に抑揚無く告げられる数字に耐えられる者は少なく、方々から大きく息をする音が聞こえていた。
「ふむ、涙ぐむ程私の問いに答えたいか。ならば解いて見せろ」
涙ぐんでたのはアクビに耐えていたからで、答えたい訳じゃ無い。しかし講師の目の前で目をウルウルしたのをからかわれ、講師の読み上げる設問を記憶する。
「1,55,00,00ウーラ、分けて3つ、更に分けて6つ、如何に?」
…酷い問題だ。155銀貨を3つで分けて、51…2銀貨。あまりの2銀貨は200銅貨にして、66…2銅貨。200鉄貨は66…2鉄貨。合わせて51,66,66…2ウーラ。気が遠くなる。
51銀貨を6つで分けて8…3銀貨。あまりを3,00銅貨にして分けて50銅貨。66,66は11,11なので、8,61,11…2ウーラだ。
「8,61,11と、あまりが2ウーラ」
「よく解けたな。感涙に咽ぶが良い」
涙より息が漏れるよ。さっきまで割り切れる数でしか問題出さなかったクセに…。朝、このクラスを無能の集まる場所と言った講師は悪そうな顔でほくそ笑む。
「では隣。寝ていると欠席扱いにするぞ?」
「うべっ、ぉ起きたし」
「寝るな。では答えてみよ」
悪い顔で寝てる奴を狙い撃ちしだした。けど寝起きでも解ける問題とか狡くね?なんだよ10,00を2つに分けろって。まあ戒めなのだろう。
「口からご飯出ちゃう所だったー」
「それは困るな」
長く苦しい勘定の授業を終えたロシェルの独白を受け流し、向かうは1階奥の整備室。武器取り扱いの教室だ。中に入ると補習の時に居た講師が既に中に居て、1人3本持って行けと指示を出していた。整備用の武具から剣2本とナイフを取り出し席に着く。
内容は補習でやった事と同じみたい。要は反復練習だ。しかし2日前はそこそこキレイだったのに、何故か汚れて傷んでる。講師が1人で汚し回ったのだろうか。
「今日からまた新しい武器だ。お前等、領兵の訓練に使われるんだから汚れを増やすなよ?」
なるほど、領兵の訓練に使う武器だったと言う訳か。鞘から外して柄のグラ付きをチェック。グラ付きがあればバラして剣身の整備して、柄を直してくっ付ける。鞘を磨いて剣を収めれば1つ終了だ。
卒無いマキと、商家のジュンは慣れた手付きで磨いてる。レイナとロシェルも丁寧な仕事で、補習に居なかった理由が分かる。
「うんうん。早いに越した事は無いが、遅くても丁寧にな。お前早いから弓の弦を外しておけ」
追加の仕事を請け負わされてしまった。仕方無いがやらざるを得ない。ちなみに冒険者に弓を使う者は多くない。なぜなら矢を買うのが勿体無い上に、尽きたら近接で戦わねばならないからだ。村で狩りをする者も、矢は自作して、整備しながら何度も使い回す。鳥の羽根が良い小遣い稼ぎになったモノだ。
弓の端を床に着けて足を添え、上からグッと押して弦を緩ませて外す。気を抜くと弓が飛んで行くので注意だ。
「明日の午後はソイツの整備だ。汚したままで良いからな」
「はーい」
外すだけなら簡単だ。途中、暇を持て余したロシェルも参加して、3本遠くへ飛ばしてた。
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