上 下
52 / 147

恐怖は、抑止力

しおりを挟む


「パーティー結成の話し合いを持ちましょう!」

 重くなった空気を明るい声で払ったのは従者のマキ。3人は元々パーティーだし、役割は決まっていそうだな。そこに外から僕とロシェルが入るので、役割を決めたりしたい訳か。明日の休みは皆暇なので、お弁当をもらったら教室に集まる事になった。

 …と言うか、なってしまった。僕加入するって言った?



 午後は暇になったので未だ倉庫の自室にて、武具の整備をして過ごす。箱の上に平干しされた服もまだ生乾きなので、外に持ってって木の枝に掛けて干し直した。寮の裏手、風呂の傍の空き地は風があって心地良い。暗くなる前に乾いてくれたらありがたい。

「おいお前、こんな所で何してやがるっ」

 浴室の壁を背もたれにして休んでいると、横からの大声に身構える。そこには3人の生徒が居て、僕に声を掛けたのはその中で1番小さい奴だった。

「ケンカすんなら相手すんぞ?」

 相手の答えを聞かず、僕は抜剣して斬り掛かる。3対1なら武器使っても問題無いよな。舐め掛かった男に斬り付けられて、チビの男は尻もちを着いた。上手く躱したな。僕は払った剣を反対方向へ振り払い、チビの脛を斬る。斬ると言っても打撃に重きを置いた剣、即ち安物だ。制服のズボンを凹ませて、チビ野郎の肉と骨に痛い目を見せる程度に抑える。

「いぎゃああっ!!」

 痛いか、よしよし。更に振るって痛め付ける。脛、腿、腰。忘れられない痛みを植え付けてやった。後ろにいた2人は棒立ちになって固まってる。狂人の目がコチラに向かないように、息を殺しているのだろう。

「お前等もケンカすっか?あ?」

 2人は僕より大きいクセに、ビクリと体を硬直させると、答えもせぬまま後退りして逃げてってしまった。動けなくなったチビを残して。

「死にたくなきゃ医務室まで這って行け。殺すぞ?」

「う…うぅ……」

 まともに答える事も出来ないチビを蹴っ飛ばして遠ざけると、やがてヨロヨロとしながら這って行った。日も影って来ているし、夕飯には間に合わないだろうな。

 乾いた服を取り込んで、早めの夕食。食堂には早飯にあり付く者が数名居て、声も無く粛々と食事に対峙していた。僕はトレーを持って自室へ向かう。料理を受け取ったタイミングでコンカーンと鐘が鳴ったからだ。男達が雪崩込んで来る前に避難しよう。

 魔力暴走が収まって暗くなった部屋にランタンの灯りが灯る。赤く燃える炎の下では食事が美味しそうに見える。今夜は皿に敷かれた角パンの上に、潰した茹で芋と茹で解し肉を混ぜた物に、粉を付けて焼いた肉。そしてその上からアカナスと豆の煮たのが掛かってる。よく見たら女子の昼飯だなコレ。本当に、質より量な男飯。作っているのは女の人だが。

 ゆっくり食事を楽しんで、たっぷり湯の雨で体を解し、のんびり予定表等見返して過ごし、寝て起きたら朝。鐘が鳴ってから食堂に入ったが、今日は補習も無い休みとあってか、昨日の朝より人が少なかった。ゆっくり座れるので今日は食堂で食べたよ。食べ終える頃にはかなり混んで来てたけど、この混み合いはちょっと慣れない。



「お、逃げずに来たな?」

「そんな事言うと帰るよ?」

 まるで果たし合いみたいな事を言うロシェルを睨み付け、やって来たのは玄関前。後退りする僕を、幼なじみ3人衆が囲んで押さえ、きっと教室に向かうのだろう。階段を上ってく。が、着いたのは3階の奥で学園長の部屋の上。ココは本が沢山あって本等を見たり自習が出来る資料室。

「この部屋には静寂の魔法が掛かっているの」

「それでも下は学園長室です。静かにするのが良いでしょう」

 レイナとマキが左右から、僕の耳元で囁いた。ゾワゾワするので止めて欲しいが、コレで普通に発した声だと言う。大声で歌っても話し声程度まで声量が落ちるんだってさ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

自称悪役令息と私の事件簿〜小説の世界とかどうでもいいから、巻き添えで投獄とか勘弁して!〜

茅@ダイアナマイト〜②好評配信中
恋愛
「原作にない行動……さては貴様も“転生者”だな!」 「違います」 「じゃあ“死に戻り”か!」 ワケあって双子の弟のふりをして、騎士科に入学したミシェル。 男装した女の子。 全寮制の男子校。 ルームメイトは見目麗しいが評判最悪の公爵子息。 なにも起こらないはずがなく……? 「俺の前世はラノベ作家で、この世界は生前書いた小説なんだ。いいか、間もなくこの学院で事件が起こる。俺達でそれを防ぐんだ。ちなみに犯人は俺だ」 「はあ!?」 自称・前世の記憶持ちのルーカスに振り回されたり、助けられたりなミシェルの学院生活。 そして無情にも起きてしまう殺人事件。 「未然に防ごうとあれこれ動いたことが仇になったな。まさか容疑者になってしまうとは。これが“強制力”というものか。ああ、強制力というのは――」 「ちょっと黙ってくれませんか」 甘酸っぱさゼロのボーイ・ミーツ・ガールここに開幕! ※小説家になろう、カクヨムに投稿した作品の加筆修正版です。 小説家になろう推理日間1位、週間2位、月間3位、四半期3位

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

婚活と経済~婚活アプリで年収400万以上の男性は狙っちゃダメ!?相談所の男性の年収のボーダーラインは350万!?~

天野桃子
経済・企業
元仲人が婚活をお金の面からガチで語ってみる。ある仲人は「婚活アプリで年収400万以上の男は狙うな。詐称が多い」と言う。また、ある結婚相談所の経営者は「相談所は男性の年収350万がボーダー。収入が低いと女性に相手にされない」と言う。なんとも金にシビアすぎる婚活の世界!!婚活をお金で見ていくエッセー集。現実的すぎて毒舌要注意ですm(__)m

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

厭世手記

深月
大衆娯楽
双極性障害/婚外/このお話はすべて嘘

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

処理中です...