上 下
52 / 194

恐怖は、抑止力

しおりを挟む


「パーティー結成の話し合いを持ちましょう!」

 重くなった空気を明るい声で払ったのは従者のマキ。3人は元々パーティーだし、役割は決まっていそうだな。そこに外から僕とロシェルが入るので、役割を決めたりしたい訳か。明日の休みは皆暇なので、お弁当をもらったら教室に集まる事になった。

 …と言うか、なってしまった。僕加入するって言った?



 午後は暇になったので未だ倉庫の自室にて、武具の整備をして過ごす。箱の上に平干しされた服もまだ生乾きなので、外に持ってって木の枝に掛けて干し直した。寮の裏手、風呂の傍の空き地は風があって心地良い。暗くなる前に乾いてくれたらありがたい。

「おいお前、こんな所で何してやがるっ」

 浴室の壁を背もたれにして休んでいると、横からの大声に身構える。そこには3人の生徒が居て、僕に声を掛けたのはその中で1番小さい奴だった。

「ケンカすんなら相手すんぞ?」

 相手の答えを聞かず、僕は抜剣して斬り掛かる。3対1なら武器使っても問題無いよな。舐め掛かった男に斬り付けられて、チビの男は尻もちを着いた。上手く躱したな。僕は払った剣を反対方向へ振り払い、チビの脛を斬る。斬ると言っても打撃に重きを置いた剣、即ち安物だ。制服のズボンを凹ませて、チビ野郎の肉と骨に痛い目を見せる程度に抑える。

「いぎゃああっ!!」

 痛いか、よしよし。更に振るって痛め付ける。脛、腿、腰。忘れられない痛みを植え付けてやった。後ろにいた2人は棒立ちになって固まってる。狂人の目がコチラに向かないように、息を殺しているのだろう。

「お前等もケンカすっか?あ?」

 2人は僕より大きいクセに、ビクリと体を硬直させると、答えもせぬまま後退りして逃げてってしまった。動けなくなったチビを残して。

「死にたくなきゃ医務室まで這って行け。殺すぞ?」

「う…うぅ……」

 まともに答える事も出来ないチビを蹴っ飛ばして遠ざけると、やがてヨロヨロとしながら這って行った。日も影って来ているし、夕飯には間に合わないだろうな。

 乾いた服を取り込んで、早めの夕食。食堂には早飯にあり付く者が数名居て、声も無く粛々と食事に対峙していた。僕はトレーを持って自室へ向かう。料理を受け取ったタイミングでコンカーンと鐘が鳴ったからだ。男達が雪崩込んで来る前に避難しよう。

 魔力暴走が収まって暗くなった部屋にランタンの灯りが灯る。赤く燃える炎の下では食事が美味しそうに見える。今夜は皿に敷かれた角パンの上に、潰した茹で芋と茹で解し肉を混ぜた物に、粉を付けて焼いた肉。そしてその上からアカナスと豆の煮たのが掛かってる。よく見たら女子の昼飯だなコレ。本当に、質より量な男飯。作っているのは女の人だが。

 ゆっくり食事を楽しんで、たっぷり湯の雨で体を解し、のんびり予定表等見返して過ごし、寝て起きたら朝。鐘が鳴ってから食堂に入ったが、今日は補習も無い休みとあってか、昨日の朝より人が少なかった。ゆっくり座れるので今日は食堂で食べたよ。食べ終える頃にはかなり混んで来てたけど、この混み合いはちょっと慣れない。



「お、逃げずに来たな?」

「そんな事言うと帰るよ?」

 まるで果たし合いみたいな事を言うロシェルを睨み付け、やって来たのは玄関前。後退りする僕を、幼なじみ3人衆が囲んで押さえ、きっと教室に向かうのだろう。階段を上ってく。が、着いたのは3階の奥で学園長の部屋の上。ココは本が沢山あって本等を見たり自習が出来る資料室。

「この部屋には静寂の魔法が掛かっているの」

「それでも下は学園長室です。静かにするのが良いでしょう」

 レイナとマキが左右から、僕の耳元で囁いた。ゾワゾワするので止めて欲しいが、コレで普通に発した声だと言う。大声で歌っても話し声程度まで声量が落ちるんだってさ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...