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男でも、泣くから

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 ギルドカードにお金を振り込んだらしいレイさんと補佐さんが戻って来て、その足で宿屋に向かう。レイさんを護衛する形で歩くのでやはり凄く見られた。

「なんか高そうだね」

「あンたが泊まってた宿に比べたら高いわね」

「レイ様が泊まられる宿としては一番下のランクなのですが…」

「お金も入ったし、今夜は私が奢るわ」

 レイさんの提案は嬉しいけど、まさか3人部屋になるなんて思わないじゃないか。

「僕安宿行くよ」

「大丈夫よ。私気にしないから。セーナは気にする?」

「着替えの時くらいね」

 レイさんは気にしなくても僕が気にするのだ。3つ並んだベッドの端々に女性が陣取り、僕の寝床は真ん中らしい。どっち向いて寝ても問題だよもう。

「僕男なのに…」

「間違いが起こったら妻にしてもらおうかしら。歳上どけど、構わないわね?」

「ユカタならきっと大事にしてくれるわよ?孤児院の女の子を見てもいやらしい顔しなかったし、大きいお胸もお好きみたいだし?」

 歳もお胸も置いといて、僕はしっかり働いて、妻なり子なりを養えるくらいになってから結婚したいんだ。それなのに、それなのに…。

「泣くぞ!?泣いちゃうぞ!?」

「冗談が過ぎたわね。謝るわ」

「…私もごめん。あンたが真面目な事、分かってて茶化したわ」

 立ち尽くして涙目になってる僕を、2人はベッドに座らせて、ムルザバからスコフィールドに到着するまでの旅の感想を話し始める。

「こっちは女の一人旅。馭者も客にも男がいて、凄く不安だったのよ。1人はあんなのだったしね」

「それで無口だったんだね」

「家に泊めてる時もそうだったけど、あンた物盗りもしなかったわよね。それだけで信用出来るわ。アレの処分も私だけに押し付けなかったし」

「タマゲルは押し付けたけどさ…」

「殺る意思はあったんじゃない」

「魔獣に囲まれた雨の日はどうしようかと思ったけど、強くて立派だったわ」

「レイは魔法使えるわよね?家的に」

「今更だけど隠してたのよ。貴女達が危なくなったら使ってたでしょうね。それにしても貴女凄かったわ。宮廷魔道士と言われても疑わないわ」

「昔の話よ」

「宮廷魔道士って?」

「国で働く魔法職の事よ。貴方知らなかったのね」

「聞いてないもん」「言ってないもの」

 セーナは国で働いてたのか。どうりで町の人から一目置かれていた訳だ。レイさん曰く、宮廷魔道士は各地の学校から選りすぐりの卒業生をさらに絞った上澄みだけが職に就け、その殆どは貴族の子女。余程優秀でないと平民出の者は就けない職だと言う。

「セーナ平民だったんだ」「薬師の孫よ?当たり前でしょ?それよりそろそろ買い物に出ましょ。明日また馬車に乗るのだから」

「そうね。この格好では目立つから、着替えてから行きましょう」

「僕外出てる」

「良い子ね」「そうよね」

 カバン2つを空にして財布を入れ、剣を提げて部屋を出た。部屋の前で立ってるのも嫌だし、1階に降りて待つ事にした。

「お客様」

「僕の事?」

 ロビーの端で待ってると、髭を生やした職員が寄って来て話し掛けて来た。周りには僕以外近くに居ないし、僕かと聞くとそうだと言うし、何か用なのだろうか?

「お客様は、お連れ様とはどの様なご関係で?」

 僕は少し考えて答える。

「護衛任務、かな。僕は戦えないけど」

「左様ですか。後程ご挨拶に伺いたいのですが、取次ぎをお願い出来ませんでしょうか」

「名前も知らない人を部屋に上げる訳には行かないよ。名前と役職、伺う目的?を紙に書いてくれたら渡せるよ?着替えたら降りて来るし」

「成程、確かに。ではその様に致します」

 その後女性達が降りて来て、髭の職員が宿屋の支配人である事を知った。店長より偉いんだって。

「帰ったら伺います」

「お帰りをお待ちしております。しかしその格好は…」

 平民姿に変化へんげしたレイさんは、この宿には凄く異質に見えた。藁束の中の薪である。




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