27 / 244
男でも、泣くから
しおりを挟むギルドカードにお金を振り込んだらしいレイさんと補佐さんが戻って来て、その足で宿屋に向かう。レイさんを護衛する形で歩くのでやはり凄く見られた。
「なんか高そうだね」
「あンたが泊まってた宿に比べたら高いわね」
「レイ様が泊まられる宿としては一番下のランクなのですが…」
「お金も入ったし、今夜は私が奢るわ」
レイさんの提案は嬉しいけど、まさか3人部屋になるなんて思わないじゃないか。
「僕安宿行くよ」
「大丈夫よ。私気にしないから。セーナは気にする?」
「着替えの時くらいね」
レイさんは気にしなくても僕が気にするのだ。3つ並んだベッドの端々に女性が陣取り、僕の寝床は真ん中らしい。どっち向いて寝ても問題だよもう。
「僕男なのに…」
「間違いが起こったら妻にしてもらおうかしら。歳上どけど、構わないわね?」
「ユカタならきっと大事にしてくれるわよ?孤児院の女の子を見てもいやらしい顔しなかったし、大きいお胸もお好きみたいだし?」
歳もお胸も置いといて、僕はしっかり働いて、妻なり子なりを養えるくらいになってから結婚したいんだ。それなのに、それなのに…。
「泣くぞ!?泣いちゃうぞ!?」
「冗談が過ぎたわね。謝るわ」
「…私もごめん。あンたが真面目な事、分かってて茶化したわ」
立ち尽くして涙目になってる僕を、2人はベッドに座らせて、ムルザバからスコフィールドに到着するまでの旅の感想を話し始める。
「こっちは女の一人旅。馭者も客にも男がいて、凄く不安だったのよ。1人はあんなのだったしね」
「それで無口だったんだね」
「家に泊めてる時もそうだったけど、あンた物盗りもしなかったわよね。それだけで信用出来るわ。アレの処分も私だけに押し付けなかったし」
「タマゲルは押し付けたけどさ…」
「殺る意思はあったんじゃない」
「魔獣に囲まれた雨の日はどうしようかと思ったけど、強くて立派だったわ」
「レイは魔法使えるわよね?家的に」
「今更だけど隠してたのよ。貴女達が危なくなったら使ってたでしょうね。それにしても貴女凄かったわ。宮廷魔道士と言われても疑わないわ」
「昔の話よ」
「宮廷魔道士って?」
「国で働く魔法職の事よ。貴方知らなかったのね」
「聞いてないもん」「言ってないもの」
セーナは国で働いてたのか。どうりで町の人から一目置かれていた訳だ。レイさん曰く、宮廷魔道士は各地の学校から選りすぐりの卒業生をさらに絞った上澄みだけが職に就け、その殆どは貴族の子女。余程優秀でないと平民出の者は就けない職だと言う。
「セーナ平民だったんだ」「薬師の孫よ?当たり前でしょ?それよりそろそろ買い物に出ましょ。明日また馬車に乗るのだから」
「そうね。この格好では目立つから、着替えてから行きましょう」
「僕外出てる」
「良い子ね」「そうよね」
カバン2つを空にして財布を入れ、剣を提げて部屋を出た。部屋の前で立ってるのも嫌だし、1階に降りて待つ事にした。
「お客様」
「僕の事?」
ロビーの端で待ってると、髭を生やした職員が寄って来て話し掛けて来た。周りには僕以外近くに居ないし、僕かと聞くとそうだと言うし、何か用なのだろうか?
「お客様は、お連れ様とはどの様なご関係で?」
僕は少し考えて答える。
「護衛任務、かな。僕は戦えないけど」
「左様ですか。後程ご挨拶に伺いたいのですが、取次ぎをお願い出来ませんでしょうか」
「名前も知らない人を部屋に上げる訳には行かないよ。名前と役職、伺う目的?を紙に書いてくれたら渡せるよ?着替えたら降りて来るし」
「成程、確かに。ではその様に致します」
その後女性達が降りて来て、髭の職員が宿屋の支配人である事を知った。店長より偉いんだって。
「帰ったら伺います」
「お帰りをお待ちしております。しかしその格好は…」
平民姿に変化したレイさんは、この宿には凄く異質に見えた。藁束の中の薪である。
30
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる